第12話 夏といえば……(水着回)
「遂に! 遂に念願の……」
パレットは目の前の光景に思わず心を震わせていた。それもそのはずである。
なぜならそれは、今まで何度も出演を拒まれてきた存在だからだ。
ある時はプールではなくボールプールであり、またある時は太陽ではなく漆黒の太陽であった。
「海!! イヤッフゥゥゥ!!」
——ザッパーン
裸足で砂浜を駆けたパレットは、一心不乱にそこへ飛び込んだ。
夏。夏といえば……
「海で決まりよね!!」
金髪のサイドテールが良く似合う。
青い海。白い砂浜。サンサンと照りつける太陽。
ここは第三の島、カイナン島だ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
—数時間前—
「ねぇヴァルカン、次の島はどんな所なの?」
「次の島はカイナン島だ」
「海難事故?」
「否、そっちのカイナンではない」
陽光町にあるパレットの居候先の家で、青い髪の青年は大きなリュックサックに荷物を詰め込んでいた。
「とても浜辺が綺麗な島だ。泳がねば勿体ないくらいにな」
「なら泳げばいいじゃない?」
青い髪の青年がポロリと滑らした言葉を、パレットは淡々と拾い上げる。
「何度も言うようだが、これは遊びでは……」
「いいでしょ、海なんて減るもんじゃあるまいし」
「海ですか!?」
パレットが発した言葉に、おとなしい少年は眼をキラキラと輝かせていた。
「そうよ、あたしたち海へバカンスに行ってくるの」
「おい、パレット……」
青い髪の青年は露骨に嫌そうな表情をするが、パレットは無視しておとなしい男の子の背の高さまで身を屈めて耳打ちする。
「特別に連れて行ってあげようかしら?」
「ほんとうですか!? やったー!」
おとなしい男の子は、両手を上に挙げて、体いっぱいで喜びを表現する。
青い髪の青年は露骨に嫌そうな顔をする。
「そうだ、せっかく海へ行くなら、みんなで行ったほうが楽しいわよね! 愛佳ちゃんと乃呑ちゃんも誘いましょう♪」
「ゆうくんとあかりちゃんも誘ってみます!」
「「おー!」」
やけにハイなテンションで、真夏のミッションが始まった。
『もしもし……拓海たちと海にですか? はい、お願いします……えっ、私も?』
『海!? 行く、絶対行く! 海に着いたら競走だ! パレットには負けねぇからな!』
『海かー、そうだね。ハーブのために行ってあげてもいいけど……えっ、愛佳もくるの!? それを先に言ってよ!』
『ふーん……まぁ、あかりはゆうくんとたっくんの保護者だからね。2人とも、あかりがいないとダメなんだから』
こうして全員のアポ(アポイントメント)を取ったパレットとおとなしい男の子は、笑顔でハイタッチをした。
青い髪の青年は露骨に嫌そうな顔をしていたが。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
それから陽光港まで歩き、クルーザーに乗ること数時間。パレットと陽光町の仲間たち計7名は、宝石のような煌めきを放つ美しい海辺にやって来ていた。
「着いた、 第三の島、カイナン島!」
「……そのようだな」
「ヴァルカンどうしたの? テンションが低いわよ? 上げてこー、おー!」
青い髪の青年は自身の荷物に加え、子供たち3人の荷物を持たされている。そしてなぜか不機嫌そうだった。
浜辺には既に100人ほどの先客がいてそれぞれのテントを広げており、パレットたちもちょうど良さそうな場所を選ぶ。
「よし、ここにしましょう」
ザクッとビーチパラソルを砂に突き刺す。ビーチパラソルの上半分を45°ほど傾けて、さらに夏らしい雰囲気を醸し出す。
「テントはどうやって広げるんですか?」
おとなしい少年も手伝おうとするが、仕組みがよく分からないらしい。テントと聞いてパレットのテンションはさらに跳ね上がった。
「ふふん♪ ようやくあたしのサバイバルスキルが活かされる時が来たみたいね!」
元特殊工作員のパレットは、サバイバル経験も豊富だ。何度も戦地に赴き死線を掻い潜ってきた。当然テントの組み立てなんて朝飯前だ。
意気揚々と腕を回しながら張り切るパレット。しかし……
「テントできたぜ!」
ズコーッ。
パレットは勢いよく浜辺に顔からスライディングした。
この世界にはポップアップテント(別名ワンタッチテント)という、骨組み無しで超簡単に立ち上がることができるテントがあったのだ。
「便利だねー」
「便利ですねー」
栗毛色の髪の
「くっ……なかなかやるわね」
「へへん、陽光っ子は時代の最先端を生きてるからな」
これでパレットと元気な男の子の戦績は、射撃対決 パレット>男の子 トランプ対決 パレット<男の子 人生ゲーム対決 勝負無効 テント対決 パレット<男の子 と、元気な男の子が一歩リードした形となった。(競争を除くと)
「だったら次は、海で勝負よ!」
パレットの闘士に火がついた。パレットはバサッと上着を脱ぎ捨て、黒いビキニ姿を晒す。
「臨むところだ!」
元気な男の子もバサッと上着を脱ぎ捨て、海パン姿となった。
2人の目からバチバチと激しい火花が散っている。
「
上下ともに紺色のジャージ姿の黒髪のポニーテールの少女は、手持ちの宝箱を浜辺に向けて開ける。
秘宝の中から、黒猫にツバメ、フェンリルが勢いよく飛び出す。
そしてくるりと海へ向き直り、もう一つの宝箱を開けた。
『
可愛くラミネートされた銅色の宝箱から現れたのは、桃色の可愛らしいイルカだ。
「クゥー、クゥー」
超音波のような鳴き声で、桃色のイルカは元気に海を泳ぎ回る。
「わぁ、可愛い!」
「愛佳!? いつの間に……」
白いワンピース姿に麦わら帽子を被った、栗毛色の髪の少女は、いつの間にかポニーテールの少女の隣に立っていた。
急に接近していた栗毛色の髪の少女に、ポニーテールの少女は頬を赤らめた。
「
「クォーン!」
「可愛い! 撫でていい?」
「いいですよ!」
おとなしい男の子も、自身が持っている唯一の秘宝獣と浜辺で戯れる。ピカピカに輝く白い角が眩しい。
フリフリのフリルが付いたピンクのラッシュガードを着たおませな女の子も今日は無邪気に笑う。
「
青い髪の青年は、一人海の近くにある川辺で、ザリガニと宙を浮くエイ、そして水亀に外の空気を吸わせていた。
その光景をテントの近くで眺めていたパレットは、悩んだ末に覚悟を決めた。
「よし、あたしも!
——ブゥゥン
パレットの開けた秘宝から、一匹のスズメバチが飛び出した。
「
「きゃあぁぁっ!?」
上半身裸の見知らぬ男性とビキニ姿の見知らぬ女性は、声をあげてその場を離れた。
「蜂だって!?」
「いやぁぁぁっ」
なだれるようにしてビーチから一斉に人が離れた。
(ですよねー)
——ブゥゥン
パレットは秘宝の中にスズメバチを戻した。蜂がいなくなったことに安土した人々は、再びゾロゾロと浜辺へと戻ってきた。
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