第11話 超えていけっ!
【陽光町から最も近い島—
No entry《立ち入り禁止》と書かれた黄色いテープを超えた先、最も多くの野生の虎が住んでいる
「ダムドレオ、ダークネス・ファング!」
夏休みだというのに学校指定の学生服を着て、黒い長髪をなびかせるジト眼の少女は、自身の秘宝獣である
「グルァァァッ!!」
「「「ガオォォォッ」」」
黒豹に向かって、三匹の黄色と黒の毛皮の虎が、縄張りから追い出そうと一斉に襲いかかる。
「「「ガオァァァッ!?」」」
しかし、黒豹は圧倒的な戦闘センスで、次々と野生の虎を
虎の穴の中には、黒豹にやられた十数匹の虎が横たわっていた。
「ご苦労なのです、ダムドレオ……」
ジト眼の少女は、黒豹の首筋を撫でる。
そして、コツコツと虎の穴の最深部にいる、一匹の小虎を腕に抱いた。
「みゃーみゃー」
小虎はジト眼の少女の腕から逃れようと、必死に抵抗する。
「ガウッ……」
最後の力を振り絞り、なんとか立とうとする親の虎。しかし奮闘も虚しく、ドサッとその場に崩れ落ちた。
引っ掻かれても、噛み付かれても、その少女は小虎を腕に抱いたまま、洞窟の外へと出ていった。
——パチパチパチパチ
拍手の音だ。
何者かが洞窟の外で待ち伏せをしていた。その人物もまた、ジト眼の少女と同じ学校の学生服を着ており、警察官の帽子によく似た学生帽を目深に被っていた。
「いやー、素晴らしい。まさか本当に虎穴に入って虎子を手に入れるとはね。さすがは我が校の生徒会長様だ」
「元・生徒会長なのですよ、徳井」
ジト眼の少女は、学生帽の少年に冷たい視線を送る。
「いいじゃないか、生徒会長で。生徒会活動は夏休み明けからだ。それまでは生徒会長と呼ばせてもらうよ」
ジト眼の少女は学生帽の少年のセリフに答えないまま、小虎を銀色の秘宝の中に入れ、島の入口の方角へ歩いていく。
「ふっ……相変わらず、何を考えているかわからないよ、キミは」
学生帽の少年は、やれやれと言った感じで両手を広げた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「それにしても会長、キミが陽光町の外へ出るなんて珍しいこともあるものだね」
「……!!」
帰り道、隣を歩きながらも一人で永遠と語っていた学生帽の少年のその一言にだけ、ジト眼の少女は反応した。
それに気を良くした学生帽の少年は、追い討ちを書けるように言葉を紡ぐ。
「何か理由があるのかな? 生徒会長様」
「徳井には関係のないことなのです」
「つれないこと言わないで、学生を代表して僕が相談にのってあげよう」
ジト眼の少女は、不機嫌そうな顔をする。
底の底に押し殺していた感情が、
【「強がってる場合じゃないだろ。仮にも生徒会長だろうが。少しは俺たちの自主性にも任せてくれ」】
淡々と返された黒髪の少年の言葉。今でも頭から離れることは無い。
【「結界は全部で三つあった。だが、その全てが君たちの手によって解かれてしまったんだ」
「再度結界を貼るのには時間がかかるんだ。その間に悪意を持ったものが陽光町で悲劇を起こしたら……
「なにかできることはないのですか?」
「僕にできるのは可能性を与えることだけさ。0%から、0.001%にね。……瑠璃は強いよ。この世界の誰よりも……」】
「っ……じょくなのです……」
ジト眼の少女は、ギュッと拳を握って唇を噛んだ。唇から赤い血液がポタポタと地面にたれ落ちる。
「生徒会長、どうしたんだ急に……」
「屈辱なのです……!! 陽光町を護るべきワタシが、知らずのうちに陽光町を破滅の道に
結果的には奇跡的に破滅の運命を逃れたものの、ジト眼の少女は強い自責の念を感じていた。
「それにあの勝率……舐められたものなのです……ワタシとダムドレオは絶対に負けない……絶対に……絶対に……」
言葉の力強さとは裏腹に、ジト眼の少女の肩は震えていた。その瞳には涙が溜まっている。
Dark Moon Dominion leopard《ダーク ムーン ドミニオン レオパルド》。通称ダムドレオ。 月闇の支配者の名を冠する黒豹は、決して人に懐くことのない絶滅危惧種の動物だ。
ジト眼の少女は幼い頃、密猟者の魔の手から幼体だったダムドレオを救い出した。それ以来、生徒会長として、最強の存在として、生まれ育った陽光町をダムドレオと共に守り続けてきたのだ。
だが、絶対強者としての彼女の誇りは、あの黙示録事件によってズタズタに引き裂かれた。
【「エロエロエロエロ♪ まさかSSランクの秘宝にここまで食らいつけるとは、思いもしなかったよ♪……けど、いつまで保つかな♪」】
あのピエロとの戦いは、ジト眼の少女の既存の概念を大きく変えるものであった……
【暗闇の中、ダムドレオと道化龍は何度も激しい衝突を繰り返す。
「はぁ……はぁ……」(意識がもうろうとしてきたのです…… 幻聴まで聞こえてきたのです……)
ジト目の少女は息を切らしながら、額の汗を掌で拭う。足はガクガクと痙攣を起こしているが、なんとか自分を奮い立たせる。
どうやらダムドレオのモードチェンジは、強大な力を得る反面、自身の体力を大きく削る状態になるようだ】
そんな極限状態だった彼女に、黒髪の少年は手を貸した。
【「……ヒナコ、ダムドレオに『リジェネレート』だ……」
「仕方ないわねッ、『リジェネレート』!!」
白い炎は、ダムドレオの身に宿り、徐々に傷が癒えていく。
「継続治癒の炎よッ!これでいいのね、黒城ッ?」】
「……そのおかげで勝つことができたのかい?」
学生帽の少年は、静かにそう諭した。しかし、ジト眼の少女は首を横に振った。
「ダムドレオの『ダークダイブモード』は、体力が減れば減るほど威力を増していくのです……だからワタシたちだけでも勝てたのに、余計なお世話だったのです……」
ジト眼の少女は、愚痴をこぼすように呟いた。
「なるほど、生徒会長さんは余程強さに自信があるみたいだね。そして相当の捻くれ者だ」
「捻くれ者は徳井の方なのです……」
ジト眼の少女はムスッと片方の頬を膨らませる。
「最強を語るなら、秘宝大会で優勝してからだ」
「嫌なのです。ワタシは
豹は縄張り意識がとても高く、豹のメスの縄張りはオスの3分の1という狭い範囲である。このジト眼の少女の生態も、パートナーである豹によく似ている。
「キミが手塩にかけて育てた現生徒会長、菜の花 乃呑はベスト8。既にシード権を獲得している。それに今年はもう一人、キミの気にしている
「黒城 弾……」
「改めて興味はないかい?」
「…………」
本当は分かっていた。けど、認めたくなかった。あの時黒城が手を貸していなければ、先に力尽きていたのはダムドレオの方だっただろう。
ジト眼の少女は、けして最強なんかじゃない。自分より強い者から、眼を逸らし続けてきただけなのだ。
「秘宝大会……」
全国で一番の秘宝使いを決める大会。ジト眼の少女は思った。自分がどこまで行けるのか、本当の実力を知りたいと。
「……ワタシも参加するのです。全ての敵を蹴散らして、ワタシが陽光町で一番の秘宝使いだと示すのです」
「ふふっ……全国大会なのに、あくまで指標は陽光町で一番か。さすが生徒会長」
「どうして笑うのです……?」
「いや、会長らしいなと思ってね」
秘宝大会を目指す者たち、一人一人にドラマがある。だが、頂点に立てるのは一人だけ。
秘宝大会開催まで、残り一ヶ月。果たして決勝リーグへ進出し、本戦を戦うのはどのような顔ぶれになるのであろうか。
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