第6話 猫神様の伝説
「やっと抜けたー! この道路に沿って歩けばいいのかしら?」
「
パレットたちは広い森を抜け、大きな一本道の道路へと出た。
「神社に着くまでにもう一つ、今度は某がこの島にまつわる話をしてやろう」
「話って、どんな話?」
パレットがそう問いかけると、青髪の青年はフッと笑った。
「ねこ島の『猫神様』にまつわる話だ……昔、この島は漁業に栄えていた。そんな漁師たちの
「わかるわー。人懐っこくて可愛いものね」
「ああ。だがある日、船の『いかり』を作るため砕石をしていた際、一匹の猫に石片があたってしまい、その猫は命を落としたという」
「また哀しい話しね……」
「まあ、最後まで聞け」
表情の曇り始めたパレットの肩をポンとたたき、青髪の青年は昔話を続けた。
「ねこ島の長を務めていた人は、その知らせに深く心を痛めた。そして、猫の今後の安全と、大漁を祈願し、この神社を建てたそうだ」
「そっか、本当に『猫のための神社』ってわけなのね……あっ、白い鳥居!」
パレットは青い髪の青年の話を真剣な眼差しで聴いていた。そして、白い鳥居を見つけて指さした。
猫神社はとても小さく、鳥居の高さも4~5mほどで、鳥居のすぐ向こう側には、こじんまりとした可愛らしい
社の近くには、野良猫が数匹寝転んでおり、参拝にきたパレットたちを出迎えるかのように、一匹の白い猫が足元へ寄ってきた。
「あたし、今度はちゃんと歓迎されている?」
「今のパレットなら、きっとそうであろう」
「ふふん♪」
2人は神社の前で笑いあった。
そして、青い髪の青年は、社の前に出て深く一礼する。そして、
続けて、青髪の青年は2回礼をする。そして、パン、パンと2回手を合わせ、再び一礼する。パレットも青髪の青年を横目で確認しながら、同じ動作を繰り返す。
(この島の猫たちと、島人たちが、今後も幸せであり続けますように……)
青髪の青年が顔を上げると、パレットは最後の礼を十数秒ほど続けていた。
青い髪の青年の視線に気がついたのか、パレットは照れながら顔を上げた。
「いったい何を祈っていたんだ?」
「なんでもいいでしょ、なんでも♪」
パレットは手を後ろに組んで、茶目っ気に舌を出した。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「じゃ、帰りましょ!」
パレットはガシッと青い髪の青年の左腕を掴んだ。
「待てパレット。何か大事なことを忘れていないか?」
「大事なこと……?」
パレットは自身の記憶を辿った。参拝するという目的も達成したし、と思いつつさらに前の記憶を引き出す。思い出したのか、急に叫んだ。
「思い出した、御朱印!」
「然り。まだ貰ってなかろう?」
「ええ!……で、どこで貰うの?」
パレットがそう思うのも当然のこと、この辺りは『猫神様』をまつった小さな社がポツンと一つ置かれているだけだ。
「この道沿いをさらに言ったところに境内がある。パレット、スマートフォンはあるか?」
「あるけど、どうするの?」
「まあ見ていろ」
パレットは小型のポーチからスマートフォンを取り出す。
青い髪の青年は、パレットからスマートフォンを受け取ると、一つのアプリをインストールした。
スマートフォンの画面には、ねこ島の御朱印を貰える場所が矢印で表示されている。
「へー、こんな機能もあるのね」
「ああ、便利な世の中になったものだな」
スマートフォンの案内を頼りに、青髪の青年は以前来た記憶を思い出しながら境内へと向かった。
先程より大きめの鳥居をくぐり、境内へと入ると、御朱印巡りに来ている他の人たちの姿もちらほら見られた。その人たちの手には、手帳のようなものが握られている。
「なんかこの島の人じゃなさそうね。あの人たちも『秘宝大会』にでるのかしら?」
「そうとも限らんが、その可能性はあるだろうな」
青い髪の青年は、この島の『本殿』へと足を進める。
「お坊さん、御朱印ください♪」
が、パレットは境内の入口付近で竹箒を掃いているお坊さんに声をかけていた。
「御朱印ならあそこで貰えるよ」
「OK! ありがと♪」
お坊さんは突然の声かけにも丁寧に対応した。さっそく教えてもらった場所へと行こうとするパレットを、青髪の青年は肩を掴んで引き止めた。パレットはふてくされている。
「もう、今度は何?」
「御朱印を貰うのは、御参りを終えた後だ。神様への礼儀を忘れるな」
「でも、神様ってアレでしょ? ちょっとナウい感じのおじ様(命の恩人だけど)」
パレットの想像の中では、神様はかなり危うい位置に存在しているらしい。
「あれでも神様だ。この世界の為に動いているのだ。礼の一つも無くてはならんだろう」
「まぁそれもそうね」
青髪の青年は擁護しているかに見えるが、若干表現が乱れているような……かくしてパレットと青髪の青年は、本殿での参拝を終え、再び境内への入口へと戻ってきた。
「よし、今度こそ御朱印を貰うわよ! すみませーん……あら?」
「はーい、御朱印ですねー♪」
パレットが御朱印を貰おうと『御朱印張』を手渡した相手は、白い小袖に
パレットは「?」と思い、後ろにいる青髪の青年をチラ見するが、青髪の青年も腕を組みながら首を横に振っている。「知らない」という合図であろう。
「ねえ、どうして巫女さんが書いてくれるの?」
パレットにそう聞かれると、巫女さんは筆を持ちながら、恥ずかしそうに言った。
「『秘宝大会』の参加者が少しでも増えるようにと、セレモニーキャンペーンということで……」
巫女さんの話によると、秘宝大会の運営委員長の発案で、お坊さんより巫女さんのほうが需要があるのでは、と提案があったとのこと。
巫女さんはパレットの御朱印張にサラサラと文字を書き終えると、猫のスタンプを御朱印帳に押した。
「ありがとう♪ なんか商売目的っぽくて嫌ね……今度あたしから運営に文句言ってやるわ」
「いえいえ。そんな、お気づかいなく……」
巫女さんのほうは少し困ったような表情でいたが、パレットなら本気で運営まで乗り込みそうである。
「よし、このまま第二の島へと向かう」
「えー、陽光町に戻りましょ……シャワーとか浴びたいし……」
「ぬぅ……わかった。陽光町へ帰ったら翌日、陽光港に集合だ。第二の島、『バグ島』へと向かう」
一つ目の御朱印を手に入れ、士気高揚してきた青い髪の青年であったが、早くもホームシックになったパレットの提案で一度帰宅することになった。
第二の島では、いったいどのような冒険が待っているのだろうか。
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