第4話 第一の島、ねこ島到着!

「着いたぁぁぁぁっ!!」


「落ち着け、船が止まってから……」


バタバタバタと、パレット勢いよく船の甲板から船着場へと飛び降りた。


陽光町から、船に揺られることおよそ2時間。パレットと青い髪の青年は、秘宝大会の参加資格である7つの御朱印を集めるため、最初の島を訪れていた。


[第一の島 ねこ島]


「ヴァルカンも早く来なさいよー!」


「そうあせらずとも、神社は逃げんぞ……」


下で大きく手を振るパレットに急かされ、青髪の青年も甲板を少し早歩きして船着場へと向かう。


「「「にゃーにゃー」」」


「うわっ!? 足元に大量の猫ちゃんが!?」


島へと降り立ったパレットには、この島の最初の洗礼が待っていた。数十匹の猫がどこからともなく現れ、わらわらとパレットの足元へ群がっていく。


「「「にゃーにゃー」」」


「見てヴァルカン! あたしさっそくモテモテよ♪」


「この島の猫は人への警戒心が薄いからな。おおかた、餌でも貰えると思っているのだろう」


青髪の青年は落ち着いた物腰で、一歩引いたところからパレットと猫たちの様子を見守る。


「いいかパレット、その猫たちに餌はやってはならぬからな。なぜなら……」


「よしよしー、船で買ったビスケットですよー」


「「「にゃーにゃー♪」」」


「……っておい!」


青髪の青年が説明しきる前に、パレットは船で購入したオヤツを猫たちの群れに投げ込んでいた。猫たちは我先われさきにと一斉に地面に撒かれたビスケットへと飛びかかっている。


「パレット、こっちへ来い」


「What's?(なに?)」


青い髪の青年は、島について数分でさっそく胃に穴があきそうな気分であった。猫の群れからパレットを引き離し、猫の姿が見当たらない場所まで移動する。


「……勝手に野良猫に餌をやるな」


「どうして? あたしは餌をあげたいし、猫ちゃんたちも餌が欲しい。これってwin-winの関係じゃない?」


パレットは自分を中心に物事を考えている。子供っぽい性格ではあるが、根は素直で優しい。だが……


「それでは猫らのためにならんのだ……」


「はいはい。さてと、どの子を捕まえようかな~。 アメショーも可愛いし、ミケちゃんもいいなー」


青髪の青年はパレットを諭そうとするが、パレットは聞く耳を持とうとしない。


「猫ちゃんにゃんにゃん~♪ ゲットだにゃ~ん♪」


「お、おい……」


パレットは自作の歌を歌いながら、青髪の青年のズボンのポケットを真探り、銅色の宝箱を一つくすめとった。旅立つ前に、秘宝堂のマスターから貰った『からの秘宝』だ。


青髪の青年は俯き、表情は陰っている。そして、小声で呟いた。


「……中止だ」


「……? なに?」


青髪の青年は叫んだ。


「御朱印巡りの旅は中止・・だ!!」


「……!? 急にどうしたのよ?」


いつもは冷静な青髪の青年が吠えた。いや、わりとよく吠えている気もしなくもないのだが、とにかくなにかに激昂げっこうしているのは間違いない。


パレットは突然声調を強めた青髪の青年に一瞬ビクッとして、キョトンとした表情で棒立ちになっている。


「返せ! パレット、今の貴卿には『秘宝使い』となる資格はない。某は1人でも帰るからな……」


青髪の青年は、パレットの手から銅色の宝箱を奪い返す。そして再び、港の方へと歩き去ってしまった。


「なによ、ヴァルカンのケチ!」


パレットもプイっと顔を背け、青髪の青年とは反対の、島人の住む集落の方向へと歩いてしまった。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


(なによ、ヴァルカンのいしあたま!)


——ゴォォゥゥ


先程まで晴れていた空が曇りだし、ポツポツと雨粒が降りてきた。


(あたしを秘宝大会に誘ったのは、あんたのほうでしょ!?)


ポツポツと降っていた雨は次第に激しさを増し、ザーザーと降り始めた。軽装で来たパレットは、雨に濡れないように人工道路ではなく、森をくぐりながら走って集落を目指す。


パレットは内心、青髪の青年の忠告を聞かず、傘も合羽も持たずに来たことを少しだけ後悔しながら走っていた。すると、森のどこかから、弱々しい声で「ミィ」と鳴く動物の声が聞こえてきた。


(子猫の鳴き声……?)


パレットがあたりを見渡すと、大樹の根本に1匹の子猫が雨の冷たさに打ち震えていた。パレットはどうしてもその子猫を放っておくことができず、その子猫を抱きかかえ、自身の体を雨避け代わりにしてひたすら走った。


「ミィ……」


「大丈夫よ、あたしが暖の取れる場所まで連れて行ってあげるから……」


とは言っても、初めて来た島だ。パレットは宛もなく森の中を走り抜ける。


(体が冷えきってる……どこかに洞窟とかないかしら……)


パレットが洞窟を探し、集落から外れた森を彷徨さまよっていると、切り開かれた森の奥に、一軒の木造の家を見つけた。


——ドンドン


「誰かいませんか!? ……開いてる!」


パレットはドアをノックし、返事がなかったので勝手に家の中へと入り込んだ。玄関のすぐ近くには囲炉裏いろりがあったが、別の世界から来たパレットには、その仕組みが分からなかった。


「ミィ……」


「子猫ちゃん……」


子猫は身を縮こまらせ、息をあげて震えていた。パレットは青髪の青年を呼びに行こうと、外へ出ようとした……しかし、感情がそれを拒絶する。


(ううん、あんなやついなくても、あたし一人でなんとかしてみせる……!)


パレットの表情が引き締まった時、急に部屋のあかりが灯った。階段の上から、コツコツと、誰かが降りてくる音がする。


(誰……?)


パレットの子猫を抱いた腕に、ギュッと力が入る。


「誰じゃ、ワシの家に入ってきおるのは……」


手すりを頼りに階段から降りてきた老婆は、ずっと眼を閉じたまま言った。


「小娘が一人と子猫が一匹か……外がザーザーと外がやかましいのぅ……」


「婆さん、眼を閉じたままでわかるの?」


「そうじゃのう……よっこいせ」


老婆はパレットの質問に答え、そして慣れた手つきで囲炉裏に火を灯し、その場へ座り込んだ。


——ボォゥ


「暖かい……」


パレットは子猫を抱いたまま、囲炉裏へと近づいた。子猫も心なしか、表情がやわらいだように見える。


——それからしばらく、パレットも老婆も何も言わず、ただじっと囲炉裏の炎を見つめながら座っていた。

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