番外編① 没キャラじゃないやいっ!

「青い海! 白い砂浜! そして……」


「漆黒の太陽……」


「誰!?」


 パレットと青い髪の青年は、陽光町から第一の島、『ねこ島』へと向かうため、『陽光港』湾岸にあるビーチを訪れていた。そんなパレットたちの背後から現れたのは、クルリと跳ねた桃色の髪の、紅い瞳の少女であった。


 紅い瞳の少女は、「キュッキュッキュッ……」と不気味な笑い声をあげて、青い髪の青年をビシッと指さした。


「ついに見つけた、ロイ・ヴァルカン!」


 ——シーン……


「ヴァルカン、この子も知り合い……?」


「否、かのような者に見覚えはないが……」


 青い髪の青年は、自身の記憶を辿るが、この紅い瞳の少女に見覚えはなかった。紅い瞳の少女は、したり顔で「キュッキュッキュッ……」と声をあげる。


「ならば教えてやろう。我が名は琥珀こはく マナ。『魔将七選ましょうしちせん』の中でも最も残酷・・と言われし悪魔……そしてロイ・ヴァルカン! マナとお前には、深い因縁がある!」


「悪魔……? 魔将……?」


 パレットはちらりと青髪の青年に目を移す。たしかに、この青髪の青年は『ヴァルカネル』という大天使の一人だ。しかし、この世界に『悪魔』がいるというのは、パレットにとって初耳であった。


「そう。そしてマナは、第2作目『ハッピートリガー』でもレギュラーキャラとして大活躍する……予定だった……」


 ——ザザーン


 打ち寄せる波。紅い眼の少女は、サンサンと照りつける真っ赤な太陽を見上げて、そう呟いた。


「予定……だった・・・……?」


 パレットも小さな声で呟いた。紅い瞳の少女の一滴ひとしずくの涙が、砂浜に零れた。


「そう、それは『どうやら黒城くんは典型な巻き込まれ主人公になってしまったみたいです 第3話 C part』(早口)のこと……」


「それ、言っていいの……?」


【3ヶ月ほど前、真夜中の私立陽光学園にて


 キュッキュッキュッ……ついにこの城を陥落した! 今日からここがマナの新たなる居城となるのだ!


 マナはへし折った。いかにも偉そうな人物の銅像をへし折った。見たか。これが魔将七選の中で最も残酷(残念で酷い、のことだとおもったやつ、表へ出ろ)と恐れられたマナの力なのだ。倒された銅像は無残にも頭部だけが転がっている。


 新たな城の主人あるじとなったマナは、銅像を乗せていた台座の後ろから足を乗せる。って、結構細いなこれ……


 その時、台座がすーっと地面を前方に滑走した。


「あわわわ……ヒャウッ☆」


 マナは後ろに転倒する。どうして台座が動くの! ってマナがプンスカしていると、銅像おもりの外れた台座の下に隠し階段が見つかった。なにこれ。


 ……キュッキュッキュッ、どうやらマナはトンデモナイものを見つけてしまったみたいだ。全ては計画通り】


 パレットはハッと思い出した。そう言えばあの時……それは、パレットが旧世界の記憶を断片的に思い出し私立陽光学園へと初めて潜入した時のことだ。


【(もしかしたら校舎の中に秘密の地下室があるかもしれない……だったら……)


 パレットはスカートのポケットからヘアピンを取り出した。おそらくピッキングの技術も習得しているのであろう。


(鍵が掛かっていようとあたしには通用しない)


 パレットはゆっくりと本校舎へと向かう。校舎の前には校長らしき人物の銅像が一度首をもがれたような形跡が見られ、接着剤やボンドやセロハンテープで補修されていた。


「絶対これだぁぁぁぁっ!?」


 パレットは思わず叫び声をあげてしまった。】


「あの銅像を殺ったのは、あなただったのね……」


 パレットは神妙な面持ちで赤い瞳の少女を諭した。赤い瞳の少女は、こくんと頷いた。


「マナ的には、そこまでは問題ないの……けど、『ハッピートリガー 第16話』にして、ついに恐れていた事態が起きてしまった……」


【 1ヶ月ほど前、ミリタリ屋から出ていくパレットと青髪の青年。


「さぁ、行くわよヴァルカン! あたしに付いてきなさい!」


「お、おい……」


 パレットは青髪の青年の腕を掴んで、元気に外へと飛び出した。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【私立陽光学園】


「ここよ、この銅像の下が入口」


 ——ゴゴゴゴゴ


 パレットは銅像を動かし、地下迷宮へと入っていった。青い髪の青年も後に続く。


「まさかこんなところに地下への階段があるとはな……」


「驚くのはまだ早いわよ!」


 パレットは足早に先へ先へと進んでいく。白い光が足元を照らし、その奥へと進むと炎の壁が立ちはだかった。


「炎の壁……」】


【炎の壁を抜けると、ひたすらに道が続いていた。ここまでは難なく来られた。


(いや、違う。あたしたちは運が良かっただけ・・・・・・なんだ……)


 道中では、いくつもトラップが見られた。ギロチンや吹き矢、水で満たされた部屋、ガスの充満した部屋。だがいずれも、トラップが作動した後だった・・・・・・・・


(つまり、自分たち以外の誰かがここを訪れ、おそらくあの炎の壁で力尽きた……)】


「はい、ここが問題のシーン!!」


 赤い瞳の少女は、バンと漫画のページを見開きながら、その場面を指さした。


「マナが思っきし死んだっぽい扱いになってるし! 本当はマナが第二の封印の付き添いする予定だったし! この青髪の青年、許すまじ……」


 赤い瞳の少女は「グヌヌ……」と拳を強く握ってギリギリと歯ぎしりをしていた。青い髪の青年はシレッと目線を逸らして言った。


「そう言われても、それがしはパレットに無理やり引っ張られてだな……」


「なによヴァルカン、あたしが悪いっていうの?」


 パレットは青髪の青年に突っかかる。赤い瞳の少女は拳を解いて再び「キュッキュッキュッ……」と笑う。


「ふんっ、マナは心がひっろーいから、今回はこのくらいで勘弁しておいてやる。だが忘れるな!『 紅き眼』の者共は、着実に動き始めているということをな……!さらばっ!」


 ふはははー! と高笑いをしながら、紅い瞳の少女は砂浜に足を取られながら走り去って行った。どうやら今後は、『紅い眼』の人物には注意を払う必要がありそうだ。

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