第3話 改めまして、秘宝って?

 所変わって、パレットたちはと言うと——


「すげー、本物のサラブレッドみたい!」


「パレットさん、すっごく似合いますね!」


「ふふん♪ ようやくあたしのグラマラスボディを披露する時が来たようね!」


(こっちの世界に来て半分近くは、味気ない瑠璃色のローブなんて着てたから、やっとオシャレができるわ♪)


 金髪の少女パレットは、茶色のテンガロンハットを頭に被り、首には黄色いスカーフを巻き、上着はいつもの黒色のブラを、下着は青のデニムのショートパンツを履いており、足元のブーツは革製である。


 一言で表せば、『カウガール』のようなスタイルだ。パレットはウインクをしながら、右の足元に巻いたレッグホルスターから銃身を取り出し、銃口部分で帽子をクイッと上にあげる。


「どう、ヴァルカン? 似合う?」


「ああ、そうだな」


 青髪の青年は、目線を逸らしながら答えた。愚直なこの男性は、パレットの新しい服装が以前より露出面積が大きいため、目のやり場に困っているようだ。


 かく言う青髪の青年のほうも、今回の旅に向けて、服装を一新した。黒と赤を基調とした海軍服をピシッと着こなしており、大きめのバックパックを背負っている。しかし、それを見たパレットは突然吹き出した。


「クスクス、ちょ……なにその大きいカバン、服にあってないって……」


「否、このカバンには旅に必要となる生活必需品が入っていてだな……おい、笑うな」


 バックパックの中身は、溢れそうなほどギッシリと入れられていた。それでいて、溢れないように丁寧に敷き詰められている。


「パレットこそ、その小さなポーチはなんだ? まさかそれで旅にでるつもりか?」


「ええ、ポーチのほうが可愛いでしょ? それに、1つ目のお寺って近いじゃない。絶対そんなに必要ないわよ 」


「むぅ……」


 お寺巡りの旅と行っても、距離的にはこの陽光町から、陽光神社を除けば3日から7日で行き帰りできるほどの距離である。


「あんた達も来る?」


 パレットは2人の小学生に声をかける。しかし首を縦には振らなかった。


「俺も行きたいけどな……」


「ごめんなさいパレットさん」


 どうやら、彼らは今回も待ちぼうけになってしまうようだ。パレットは「そう……」と小さい声で呟いた。


「ヴァルカン、サクッと1つ目の御朱印を手に入れて、サクサクッと陽光町へ戻るわよ!」


「ああ、行こう!」


 こうしてパレットとヴァルカンの堂々巡りの旅が始まった。


「頑張れよ!」


「頑張ってください」


 元気な男の子『ゆうた』とおとなしい男の子『たくみ』は、大きく手を振って旅立つ者達の背中を見送った。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「ねぇヴァルカン、前から聞きたかったんだけど……」


「どうした?」


 旅を始めて徒歩10分。見慣れた陽光町の商店街に、パレットと青髪の青年の姿はあった。


「『秘宝』ってどうやって手に入れるの?」


「今からそれを説明しにいくところだ」


 それから少し歩くと、青髪の青年は商店街にある一つのお店の前で足を止めた。店の看板には、『秘宝堂』と書かれている。


「ここだ」


「もしかして、普通に売ってる感じ?」


「一応な」


 会話を手短に切り上げ、青髪の青年は店の中へと入っていく。パレットもその後を追う。


「マスター、失礼する」


「やぁ、いらっしゃい」


 店の奥から、スーツ姿で落ち着いた雰囲気の細身の店主が現れた。


「マスター?」


 パレットは腕を組みながら首を傾けた。


「初めまして、金髪のお嬢さん。私はこの秘宝堂の店主。みんなからはマスターと呼ばれているよ」


「ふーん……」


 パレットは茶色で統一されたシックな雰囲気の店内の様子を見渡していた。店の所々には写真が貼ってあり、『秘宝獣』と、その飼い主であろう『人間』が仲睦まじそうに写っていた。その中に1つ2つ、見覚えのある人物の姿があった。


「あっ、これって乃呑ちゃんじゃない?……一緒に写ってる黒い猫は確か……」


「『白銀の狩人』こと菜の花 乃呑。そして彼女の最初の秘宝獣である『ハイドキャット』の『ミント』だね」


 秘宝堂のマスターがパレットへ声をかけた。パレットは思わず目を丸くする。


「もしかして、全部の写真のペアの名前まで覚えてるの?」


「まあね。もっとも彼女は有名人だから、知らない人のほうが少ないだろうけど」


「ふーん……やっぱり凄いのね、ベスト8って。あ、ちなみにこいつもベスト8よ」


 パレットは青髪の青年を指さした。


「ははっ、ヴァルカンくんはうちの常連様だからね。もちろん知っているよ」


 青髪の青年は怪訝そうな表情をして、咳払いをして、マスターに耳打ちをする。


「マスター、パレットはこの国に来て日が浅いのだ。多少の無礼な態度は目を瞑ってくれると助かる」


「ははっ、変わった人が多いねー、陽光町の秘宝使いは。面白くて結構だよ」


 マスターは笑いながら、パレットにも聞こえる声でそう述べた。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「マスター、本題に移るが例のものを」


「例のもの?」


 青髪の青年の言葉に、パレットは首をひねった。マスターは白い歯を見せながら親指を立て、店の奥へと入っていった。マスターを待つ間、青髪の青年がパレットに問いかけた。


「パレット、秘宝にランクがあるのは覚えているか?」


 手のひらサイズの宝箱、『秘宝』は、色によってそのランクを分けられている。


「ええ、たしか銅色がCランク、銀色がBランク、金色がAランク、白銀色がSランクで、虹色がSSランク……だったかしら?」


「然り。補足すると、秘宝獣はその捕獲難易度に合わせたランクの秘宝で捕まえるのが定石だ。まれに例外もいるがな」


「例外って?」


「ああ、本来の捕獲難易度がBランクの秘宝獣を、まれにCランクの秘宝、銅色の宝箱で捕獲するという荒業あらわざを使う者のことだ。


 菜の花の秘宝獣、『ミント』『セルフィ』『ハーブ』も本来はCランクの秘宝で捕まえられる捕獲難易度ではないのだが、動物の特性を知り尽くし、家族同然に愛情を注ぐ菜の花だから為せるわざだな」


「……今日はやけに乃呑ちゃんのこと持ち上げるじゃない」


「いや、秘宝使いとして尊敬に値するということであってだな……」


 他の女の子の話を嬉々として語る青髪の青年の姿に、パレットはムスッと頬を膨らませていた。話をしているうちに、マスターが再び姿を表した。


 その手には、銅色の宝箱が3つと、銀色の宝箱が1つ、キラキラと輝きを放っていた。マスターはニコニコしながら語る。


本社カンパニーも製造が追いつかなくて、仕入れるのが大変なんだ。これだけしかないけど、よかったかい?」


 青髪の青年は、マスターから秘宝を受け取りながら、パレットに説明する。


「非常に助かる。秘宝は需要過多でな、供給が全く追いついていないのが現状だ。故に金色の秘宝、Aランクにもなると原価を超える数万円で取り引きされている」


「転売ってやつかしら? こっちの世界にも悪巧みをする輩もいるのね」


「光があれば影もある。世の中は一見単純そうに見えて、複雑なのだ。マスター、改めて礼を言う」


 青髪の青年は、秘宝堂の店主に深々と頭を下げた。パレットもそれを真似するように軽く会釈をする。 マスターは再び白い歯を見せ、親指を立てて2人を見送った。


 この世界はまだまだ奥が深そうだ。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




 初めましての方、前作から読んでくださっている方こんにちは! 作者の 上崎 司です!


 本作、『ハッピートリガー+(クロス)』は、前作『ハッピートリガー』のスピンオフとして、また、第3作として想定していた『秘宝大会編』の前哨戦として、明るく楽しく『秘宝』および『秘宝獣』のことを知っていただきたいなぁと思って書き始めました(^^)


 いつもと同じく、2日に1度更新、3話で1話の形式で今回も進んでいくと思います! 本作ではパレットは『カウガール』スタイル、ヴァルカンは『海軍服』スタイルに一新し、小さな冒険を繰り返す物語になります!


 また、本作では『読者様の考えた秘宝獣』を作中に登場させたいなぁと思っております! くわしくはあらすじで要項をチェック! 近況ノートへご投稿ください(^^) あなたの考える素敵な秘宝獣、お待ちしております♪

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