第3話
「ユカリエル、盾とか武器とかないの?」
「あ、やっぱり要ります?」
佃煮ハザードを乗り越えた勇者こと俺は、ボスかなんかを倒し、ヒロインかなんかを救う冒険の旅にいよいよ出発することになったわけだが、剣も盾も持っていないことに気がついた。
「そりゃ要るでしょ。一応アレでしょ?なんか敵とか出てくるんでしょ?」
「もちろんです勇者様。外にはネットで募集した敵がゴロゴロいますよ。」
もうユカリエルのこれに関しては無視しよう。
「だからその、装備が欲しいんだけどさ。」
「そういうと思っておりました。こちらをどうぞ。」
そういうとユカリエルは台所から包丁を持って来て俺に差し出した。
「いやいやいや、何これ。」
「剣でございます。」
「刃物だけどさ。スウェットで包丁もってウロウロしてたら確実に逮捕だから。勇者じゃなくて不審者だから。」
「うちには剣はこれしかなくて……」
「そこは準備あめぇのかよ。昨日ドンキ行った時に買っとけよ。もーいいよこれで。ほんで盾は?ろくなのじゃねーんだろうけど。」
「盾はこれしか……」
そう言って丸い鉄板を台所から取り出す。
「鍋蓋かよ。炊き出しじゃねーかこれじゃ。」
「いえ、キャプテン・アメリカのやつです。」
「キャプテン・アメリカのやつかこれ!なんで台所にこんなもん置いてんだようちは!キングサイズの中華鍋だぞこんなもん!どうやって使うんだよこれ!」
「やだぁどうやって使うかなんて……わかってるくせに。」
なぜ恥じらうんだ。しばきてぇ。荒れてる中学生ってこんな気分なのかも知れん。
そもそもこれ投げて使ってるイメージだぞ。包丁より強いんじゃねーのかこれ。
「とりあえず行きましょう。扉も開いたし。」
外に出ると雑コスプレのモンスターがうろうろしていた。
なんかもう疲れた。
全身ボディペイントの変態が近づいて来た。とりあえずこいつを倒してボスとヒロインの詳細を聞くことにしよう。
「げっへっへ。勇者よ。ここは通さねぇぞー。」
「うわ、なんか来たよ。どうしたらいいのこれ。」
「勇者様、とりあえず剣で攻撃しましょう。」
「えっ、いやダメだよあれ地肌にペイントしてるだけのやつだよ。あばら見えてるもん、大怪我するって。不審者飛び越えて犯罪者だよ。」
「警察にはなんか上手いこと言っときますから!」
「多少やべーのは認めてんじゃねーか。とりあえずあれだ、ヒデキにやらせようぜここは。グーでパンチさせよう。」
「闇の炎です。」
「じゃあ闇の炎でパンチさせよう。こんなわけわかんねーとこで前科ついてたまるか。」
「あ、神とヒデキは置いて来ました。なんかちょっと絡み辛かったんで。要らねーなと思って。」
「うそだろお前ぇ!2話であいつら消したっつーのかぁ!ミスだよ、ミス!コスプレおばさんと職質手前のキャプテン・アメリカじゃやってけねーよこれからぁ!」
「いつまでやってんだコノヤロー!」
「うるせぇえええ!」
バキャァ!
ペイントが襲いかかって来たので盾でぶん殴っておいた。
変な音がしたが気にしない。雑魚なのが悪いのだ。
「ううう……俺を倒したとしても第ニ、第三の魔王が……お前を……」
「えええええ!うそだろお前魔王かよ!もっと魔王感出してこいよ!しかもよっわ!これだとなんなら成人男性でも弱い方だぞお前!」
「すごい勇者様!やっぱり異世界転生の主人公って強いのね!あの恐ろしい魔王を一撃で……」
「まてまてまてぇ!無理やり最初から最強にしてんじゃねぇぞバカ!てめぇさっきとりあえずとか言ってたじゃねぇか!」
プルプルしながら魔王が立ち上がる。産まれたてのナメック星人のようだ。
「くっ……姫は貴様に返そう……」
これで終わるならまぁいいかと思っているのも事実だった。早く済ませよう。
「あ、大丈夫ですか?」
「助けていただいてありがとうございます、こんにちは米沢です。」
「米沢ぁぁ!てめぇくどいんだよバカヤロー!死ねっ!穴という穴に佃煮詰まって死ねっ!」
米沢は肩パンで追い払っておいた。
「普通こういうのはさ、可愛い女の子だろ。どうなってんだよユカリエル。」
「あー可愛い方はあれです。第2の魔王のところにいますよ。」
「第2の魔王の就任早くね?やっぱさっきの魔王偽物だよ。もしくはあだ名だ。万年ベンチのやつが秘密兵器って呼ばれていじられてる感じだよ。」
「第2の魔王のところにはきっとクラスのマドンナ的なのがいますよ。行きましょう。」
やっぱさっきの魔王がとりあえずで捕まえたヒロインが米沢っつーのがムカつく。
ひとまず第2の魔王のヒロインが可愛いことを願って旅をはじめた。
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