第2話


 居間に4人が集まり、会議が始まった。


「で、あのさ母さん? なにこれ?」


「だからユカリエルだって。超美少女魔法天使ユカリエル。」


「わかったユカリエルでいいわもう。なんなのこれ。」


 ユカリエル、雑なコスプレの母親が目の前でもじもじとしている。勝手にひとんちのカルピス濃いめにつくって飲んだやつが落ちる地獄がこれくらいだと思った。


「いや、だから、その、異世界転生よ。異世界。」


「いや違うからね? さっき窓から軽トラ走ってるの見えてたから。異世界転生ってそういうのじゃないの。つかそもそもなんで俺を異世界転生させようと思ったの。」


「いやこれ異世界だから! そこは譲れない!」


「あー!わかったようるせぇな!なんでこんなことしてんだって聞いてんだよ!」


 またユカリエルがもじもじとする。俺、濃いめどころか原液がぶ飲みしたかも知れない。


「異世界にぃー転生したらぁーなんかぁー強くなるって聞いたからぁー転生させちゃったの。」


 殴りてぇ。


「いや違うのよあれ。もともと天才なんだけど人間界だとうまくでてこなかっただけなのよ。」


「まぁまぁ。転生したんだ勇者よ。とりあえず魔王とかドラゴン的なさ?ボスみたいなのを倒してーその、ヒロイン?的な?女の子を救ったら終わるってコレ。」


 白いロン毛、白い髭の神が話しかけてくる。神というか父親だ。父親の中の神のイメージが白い毛だけかと思うと泣けてきた。


「わかった、わかったよ。勇者でいいよもう。」


 人生諦めが肝心だ。

 こうしてスウェットの勇者とノーメイクの天使、変態使い魔に神のパーティが結成された。無課金でももうちょいマシになるぞ普通。


「じゃあとりあえず出発しよう。」


「ふっ。甘いですわ勇者様。」


「は?何が?」


「この玄関の扉は地下研究室からファルコンの像を探し出して、扉に描かれた絵画と影をぴったりと合わせなければ開かないようになってますわ。」


「てめえええ! うちに地下研究室なんか無かっただろ!これじゃ勇者じゃなくてゾンビハンターじゃねぇか!」


「しかし地下にはT-ウイルスに感染した高校の同級生がウヨウヨと……」


「巻き込んでんじゃねーよ!つかまたキャラ崩れてんじゃねーか!兄貴を見習えよ!さっきから犬のジョンと本気でじゃれてるぞ!」


 全身タイツでペットと本気でじゃれてる人間を見習うべきかと聞かれれば答えにくいところではあるが。


「さぁ!勇者様!地下へ向かうのです! 」


「もうわかった!行ってくるから!」


 地下室は少しひんやりとしている。なんとなく変なにおいもする。


「くっそー。訳のわからん仕掛けを……」


 その時だった。


「ウオオオオ!」


 道の向こうから何かがやって来た。


「う、うわぁ!なんだ⁉︎」


「ふっふっふ、ゾンビだー。」


 身体中に黒くてドロドロしたものを纏った隣のクラスの米沢が出て来た。


「お、おお。米沢か。」


「いや、ゾンビだ。今は米沢じゃない。」


 小太りで丸い顔にメガネ、よく言えばマッシュルームヘア、悪く言えばクソおかっぱの知り合いは米沢しかいない。そもそもそんなに仲良くなかったのに何してんだコイツ。


「米沢がT-ウイルスに感染した結果こうなったのだー。」


「さっきから怖くねぇんだよ。つかどうなってんだよその格好。何その気持ち悪いの。」


「あ、これ?これ海苔の佃煮。」


「佃煮⁉︎佃煮なのこれ!T-ウイルスって佃煮ウイルスかよ!」


「米沢だけにごはんですよってな。ふふっ。」


 スベり散らかしたので肩を強めに2回殴ったら走って逃げた。2度と出てこないで欲しい。


「早くファルコンの像を見つけてこんなとこ早く出よう……」


 しばらく歩くと、研究所のような所に出た。


「お、ついに近づいて来たな。」


 ガラス張りで近代的になって来た周りの様子に目的地が近い事を感じた。

 と、その時だった。


 パリーン!


 背後でガラスが割れた音がした。


「な、なんだ⁉︎」


 振り返るとそこには佃煮まみれのジョンが立っていた。


「てめえもかあぁ!おいペットも揃って一家でバイオハザードのファンだらけかふざけんなよ!」


 パリーン!


 続いて米沢が飛び込んできた。


「米沢コラァ!てめぇはどうなりてぇんだコノヤロー!」


 米沢は強肩パン3発、ジョンは頭を撫でたらどこか消えて行った。共通して佃煮の感触が気持ち悪かった。特に米沢は2度と出てこないで欲しい。いやマジで。


 こうして度々の襲撃を受けながらもなんとかファルコンの像を手に入れ、地上に戻った。


「ハァ……さっさと冒険に出よう……」


 ガチャ。

 居間の扉を開ける。


「ユカリエル、麦茶とって。」


「はい。あんたちゃんとサラダも食べなさいよ。あ、神様麦茶いる?」


「あ、いるいる。いややっぱ夏はそうめんだね。そうめん最高だなーほんと。あ、ユカリエルわさび取って。」


へんな集団が仲良くしてるのになんかもう慣れてきた。


「てめぇらぁ!なんで人が佃煮まみれになってる時に仲良くそうめんでお昼にしてんだコラァ!」


「あら勇者様、おかえり。」


 見るたびに雑なコスプレがムカつく。


「ユカリエル、勇者様怒ってるよ。」


「あらぁ、どうしてかしらねぇ。」


「多分あれだ。勇者様レーザービームかわすやつもやりたかったんだよきっと。」


「あらそーなのかしら。ごめんねー。とりあえずあんたもそうめん食べなさい。」


 次はショットガンをちゃんと持っておこうと思った。そうめんは美味しかった。

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