第2話 「目覚めた場所は」
「俺は死んだのか・・・・・・」
そこには何も無い。
ただ、ひたすら暗闇が続いている、それだけだ。
「お前は何者だ?」
闇の中から『何か』の声が聞こえてくる。
低く、ノイズがかかったような声だ。
「お前は、まだ早いようだ」
その瞬間、俺の意識は、暗闇から出てきた黒い『何か』に飲み込まれた。
「ここはどこだ・・・・・・」
目を開けると、そこには夢でも見ているような、そんな不思議な世界が広がっていた。
下を見渡すと多くの人がこちらを見上げている。
下にいる人が小さく見えるということは、それなりの高さがある建物に俺は立っているのだろうか。
下にいる人、いや、よく見るとただの人ではない。
犬や虎といった人間とはかけ離れた顔をしているもの。
また、人間と同じ顔をしていても赤や緑色といった現実では考えられない髪の色をしたものが多数いる。
辺りにはレンガで造られた街並みに、木造の商店が並んでいる。
遠くを見てみると広大な大地が広がっている。
そう、それは、まるで俺がプレイしていた『Fantasy the world XV』というゲームのような世界観だった。
そして、俺がいる場所もまた、この街からの高さに、白いレンガで周りを囲み、ガラスで全面を覆われた高級な造りから、おそらく王宮や城と呼ばれる場所だと見当がつく。
「なぜこんな所にいるんだ。俺は死んだはずじゃ・・・・・・」
確かにあの時、トラックに轢かれ死んだはずなんだ。
だって見てしまったから、見たくもなかった悲惨な光景を。
「勇者アレス、私の元へ」
俺の5mほど横にいる、白色の長髪に金色の王冠をかぶり、赤色の衣装を身にまとった老人が『誰か』を呼ぶ。
「アレス様、アレス様」
今度は、俺の直ぐ横から声が聞こえてくる。
声の聞こえた方に顔を向ける。
そこには、白いドレスに身を包んだ黒髪の女性が俺の横に膝をつき何か言っていた。
「アレス・スター・ヴァン様、聞いておられますか?」
彼女は顔を上げ、俺をのぞき込む。
「か、楓か?」
美しい長い黒髪に整った容姿、優しそうな声、それはまさに彼女そのものだった。
ここにいるはずのない彼女に・・・・・・
「何を言っておられるのです。私は、あなたのワイフのクリスタ・スター・ヴァンですが、その楓という方はいったい・・・・・・」
彼女の眉間にシワがよる。
ワイフ・・・・・・これは、結婚相手を意味する英単語で英語が不得意な俺でわかる。
つまり、彼女は俺の奥さんってことになるのか?
そうなると、さっきの台詞は色々とまずそうだ。
「ってそれより、アレスって一体・・・・・・」
彼女に尋ねようとした、その時だった。
太陽の光が目の前にあるガラスに俺の姿を映し出す。
自分の体の半分ほどある大きな剣を肩に刺し、前髪が後ろに跳ね上がった銀色のショートヘアー、容姿は、どことなく俺に似ている・・・・・・
嘘をついたことは認めよう。
容姿は、俗にいう『イケメン』というやつで俺とは似ても似つかなかった。
「アレス様、早くルイス三世の元へ」
ルイス三世?
あの老人の事だろうか。
見た目からの予想通り、やはり『王様』という立場なのだろうか。
「あ、ああ」
俺は彼女に返事をし、彼の元へ歩み寄る。
「勇者、アレス・スター・ヴァンに盛大な拍手を!」
その見た目からは想像出来ぬほどの大声で下に向かって叫ぶ。
そして、俺の手を取り、空に向かって掲げた。
「アレス様〜」
「勇者様ありがとう〜」
大きな拍手とともに、歓声が聞こえてくる。
何とも言えないが・・・・・・悪い気はしない。
何の取り柄もなく、褒められることなど滅多になかった俺がこんなに多くの人々に褒められているのだから。
ここまで来ると、もう、そう考えるしかないだろう。
『異世界の勇者様と入れ替わったってことか!?』
ここでの俺は皆から慕われる最強の勇者?
『Fantasy the world XV』で最強の俺が異世界で最強になれないはずがないだろ?
「みんな、ありがとう」
俺は下にいる人々に向かって大きく手を振る。
良く考えると、俺は異世界に転生されるべき存在だったのかもしれない。
あ、今回は精神だけ異世界に来ているわけだから転移って呼ぶべきだろうか?
まあ、それは、この際どっちでもいいか。
だって、これから俺の伝説が始まるんだからさ。
・・・・・・そのはずだった。
俺が異世界の勇者様と入れ替わって最強になれないはずがない!! ゆうぼう @yuki0086
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