俺が異世界の勇者様と入れ替わって最強になれないはずがない!!
ゆうぼう
第1話「プロローグ」
「闘真、 早く起きないと遅刻するよ〜」
一階から母親の声が聞こえてくる。
朝から大きな声で寝起きの耳にはあまりよろしくない。
寝相の悪さでバラバラになった布団から出て枕元に置いてある黒色の目覚まし時計を見る。
AM 8:00
なんだ、まだ8時か・・・・・・
8、8時?
「やばい! あと30分で学校始まるじゃん!」
急いで布団から飛び起き、制服に着替える。
「あ〜 もう、ネクタイどこだよ〜」
タンスの奥に落ちているネクタイを見つけて手を伸ばす。
制服はブレザーだ。
一見、オシャレで良いと思うかもしれないが、ネクタイをしめるという面倒な作業が追加される。
オシャレに、それほど興味が無い俺にとっては、学ランの方が良かったりもする。
「なんで、アラーム鳴らなかったんだよ!」
ネクタイをしめつつ時計に向かって文句を言う。
「ちゃんと鳴ってたわよ〜」
母親の声が聞こえてくるが、あえて、それは聞き流す。
他の何かのせいにして、自分に責任を問われないようにしようとするのが俺の性格だからだ。
着替え終わり、急いで階段を降りる。
「朝ごはんは〜?」
「急いでるからいらない。 行ってきまーす」
黒い革靴を履き、急いで家を出る。
学校までは、3km程の距離で10分も全力で走れば着く。
部活はやっていないが、この通学方法のおかげで普通の人よりは、体力には自信があった。
「おはよー、闘真」
10分程走り、あと少しで学校に着くところで横の角から出てきた女の子に話しかけられた。
「ああ、楓か。 おはよう」
彼女は小学校からの幼なじみで、俺が唯一友人と呼べる女の子で、初恋の相手でもある。
カノジョは、俺とは違い、胸まで伸びた綺麗な黒髪に、整った容姿、友達思いの性格から、学校では、男子、女子、両方から好かれる存在だった。
俺の方はといわれれば、容姿はいたってどこにでもいる普通の顔で、内気な性格から、まだクラスに馴染めず友達と呼べる存在も彼女しかいなかった。
そんな正反対な二人が一緒にいられるのを見られると、色々とマズイと思ったので、高校に入学してからの1ヶ月間、なるべく彼女を避けるようにしていた。
「なんか最近、闘真さ、私に冷たくない?」
「そうか? 別に普通だけど」
「じゃあ、今日久しぶりに闘真の家に遊びに行ってもいい?」
彼女は一度決めたことは二度と曲げることはしない。
「夜だったらいいけど・・・・・・」
家なら学校のやつに見られることもないから大丈夫だろう。
「じゃあ、約束ね!」
そんな事を話している内に学校に着いた。
校舎は、あまり新しくなく、所々にヒビがあったりもする。
下駄箱で靴を履き替え、三階の教室へと向かう。
授業開始10分前に席に着くことができた。
クラスが賑わっている中、淡々と授業の準備を済ませ、10分後の始業を静かに待つ。
ーー授業が終わり、生徒達は部活に行ったり帰宅したりする。
今日も特に誰とも話すことは無く一日が終わった。
「課題のプリント、山本君だけだしていないから、後で出しておいてね」
「ごめん、わかった」
唯一話したことといえばこれだけだ。
ちなみに山本っていうのは俺の苗字だ。
今後出てくることは、ないに等しいので覚える必要はないだろう。
俺は帰宅する前に唯一自分が得意なことをやりに「あそこ」へ行く。
そこは、学校から家とは逆方向に15分ほど歩くところにある。
商店街の真ん中にある二階建ての建物。
コンクリートで作られた外壁に、その薄暗い雰囲気から近寄り難い場所。
そう、ここは、いわゆるゲームセンターと呼ばれる場所だ。
中に入り、手前のクレーンゲームコーナーを抜け、奥へと進む。
そこには、「Fantasy the world XV」と大きなロゴが入った、白い色をしたゲーム機が四台置いてある。
このゲームは、異世界を舞台に職業を選択し、ストーリーを進めていくというもので、シリーズ15作目の大人気タイトルだ。
昔から友達が少なく、家で一人で遊ぶ事が多かったことからか、俺の唯一得意なことはゲームだった。
財布から100円を取り出し投入する。
セーブデータを保存している専用のカードを入れ、ゲームを始める。
俺のこの世界での職業は「勇者」
近距離での剣を使った戦いはもちろん、遠距離でも魔法を使って戦うことが出来るバランスに優れた職業だ。
戦闘は2バトル構成で、1バトル目で雑魚キャラ、2バトル目でボスキャラと戦うという構成になっている。
「グヒグヒヒヒヒ」
奇声を発しながら、緑色をしたモグラ型の怪物「ゴブリン族」の群れが襲いかかってくる。
俺は□(四角)ボタンを押し「ただの通常攻撃」で応戦する。
剣を一振りすると、たちまち群れは跡形もなく姿を消す。
コントローラーでキャラを横に移動させると場面が切り替わる。
壮絶な戦いを想像させる、あかにもなBGMと共にゴブリン族のボスが姿を現す。
巨大な相手の出現により、ここから白熱したHPの削りが始まる・・・・・・そんな事は全くもってなかった。
『サイレント・ザ・キル』
ボタン操作を組み合わせ、コンボを繋ぐことで、大きくテロップが表示される。
そして、魔法を使うためのMPが最大まで消費される。
相手が攻撃をする間もなく、敵の背後に回り込む。
これは、ステルス能力を最大限まで引き上げる魔法だ。
ゴブリンは、その存在に気づき振り向こうとする、その一瞬、たった一振りで体を切り落とし全てが終わる。
そうして、この勝負は一瞬で幕を閉じた。
「今日も、こんなもんか・・・・・・」
このゲームは、キャラクターのレベルによる能力値の増減が激しく、毎日ゲームセンターに通って、カンストさせた俺の相手になる敵など既にいなかった。
カードを抜き、ゲームセンターを後にする。
「そういえば今日、楓が来るんだっけ・・・・・・」
横断歩道をうつむきながら渡る。
「はぁ〜 つまんねーな〜」
「 」
どこからか声がする。
前を向くと向こう側にいる人達が、俺の方を見て何か叫んでいる。
「ん? 何て言ってん・・・・・・」
大きな音と共に何かが俺の体にぶつかった
「何だあれ・・・・・・ あれって俺の・・・・・・」
不思議な体の感覚に疑問を抱きつつ、目だけで、さっき渡っていた横断歩道を見る。
そこには、大型のトラックが一台停まっている。
そして、その下には首から上の部分だけがない俺の胴体が転がっている。
「俺は死ぬのか・・・・・・」
そんな中、ふと楓の事が思い浮かぶ。
「今日の約束・・・・・・」
楓は、もう俺の家に着いているのかな。
今日こそ、俺の気持ちを伝えようと思っていたのに。
『嫌だ、死にたくない、死にたくない、俺まだ・・・・・・いや、もう・・・・・・』
その瞬間、倒れていた体から真っ赤な血が大量に吹き出した。
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