一家団欒

 おじいちゃんが死んじゃってから、とても時間が過ぎた。

 私は二十歳を過ぎて、今、お墓参りに来ている。

 あの時おじいちゃんに贈られた神衣かみこは、今でも私を護ってくれている、と私たちは信じてる。

 あの年の七月七日、私がトラックの事故現場に遭った時、おじいちゃんの具合がちょうど悪くなったらしい。

 風もないのに飛んだ神衣は、私を護るように、横断歩道から私を遠ざけた。

 神衣には、その形から「式紙」のような役割をする事もあるのだという。

 おじいちゃんはあの時、私を護るために、私の身代わりになってくれたのだ。

 私の将来の夢は、色々とあって、変わった。

 今の私の夢は、おじいちゃんと同じ。

 一家団欒。

 家族が集まって、楽しく過ごす事。

 お墓参りには、私と、お母さんと、そして、私の旦那さんと一緒に来た。

 おじいちゃんとおばあちゃんの金婚式、つまり、結婚五十年の年に、私は旦那さんと結婚した。

 その日は勿論、家の真ん中に白いガクアジサイを飾って。

 おじいちゃんに、夢を叶えてくって、口に出して約束した。

 旦那さんも、一緒に約束してくれた。

 良い人と出会えたって、私は思う。

 今でも、七夕の日には願い事をする。

 ━━夢が叶いますように。

 本当の願いは、叶うと信じて。

 今、私のお腹には赤ちゃんが居る。

 おじいちゃんが護ってくれたから、授かれた子だ。

 今、大体妊娠三ヶ月目。

 名前は何が良いかな、とか、どんな子に育ってくれるかな、とか。

 そんな他愛ない話を旦那さんとする時間が、とても穏やかで、幸せだ。

 おばあちゃんはすっかり、歳を取ってしまった。

 一緒に寝ていると、おばあちゃんの寝息がたまに止まって聞こえる。

 それがヒヤリとするけど、何ともないとほっとして、朝起きて「おはよう」って挨拶できると、心から安心する。

 長生きしてほしい。

 お母さんも、体が重くなってきたらしくて、小さな怪我が増えた。

 痣も、擦り傷も、切り傷も、体中にできている。

 それでもお母さんは、平気そうに笑っているけれど、私は心配だ。

 そんな私の考えを、旦那さんは尊重してくれて、私たちは一緒に暮らしている。

 来年は、五人で七夕飾りを作れるといいな。

「おじいちゃんが護ってきたもの、私も護ってくよ」

 神衣を持つ手で、まだそんなに膨らんでないお腹をさすりながら、おじいちゃんに言う。

 団欒だぞ。

 と、おじいちゃんはお墓の中から、私たちに言ってくれているのだろう。

 きっと、眉間にシワを寄せて、あの、しかめっ面で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る