第3話
なんか
寝付けなくなっちまった
別に興奮してるわけじゃねえんだけど
いや、まあ、そも興奮する理由なんかねえし
…ねえんだけど。
急に、ほんと突然脈絡もなく
すげえ貴重な時間な気がしてきた
目の前の、このわけのわかんねえ猫耳ショタロボットがこうして俺の目の前で、
静かに寝息立てて眠ってんのも
呼吸してんのも
ほのかに温いのも
俺に向ける期限付きのこの愛情も
今の今だって確実に、停止に近づいてるわけで
ああ
せいせいするぜ
早く過ぎろこんな面倒な時間
そう思いながら
俺はけんたを思い切り両腕で抱き込んだ
けんたが耳元で眠そうにうなってる
そのうなり声すら可愛く聞こえてもう
す…っげえ、イライラする
枕元に置いていた携帯が鳴った。
明日のアラーム仕込んでたから、いつもより派手に響いたその着信音で、俺の腕の中にいたけんたがびくりとはねて目を覚ました。
「んにゃにゃっ」
こんな時間に誰だよ…
動くのもダルイけど、俺は携帯の画面に目をやった。
”着信・篠倉”
あ?
インテリ変態…
あいつが俺に、何の用だ?
俺は、ゆっくりと通話ボタンを押した。
「…んだよ、」
『夜分遅くにすまない、悪いが…』
「悪いと思ってんならかけてくんな、切るぜ」
『最後だと思って健汰に会わせてほしい。』
「……」
『一新君、頼む』
あの涼しげな顔からは想像できないような、切羽詰った声だった。
けんたは、誰からの電話かわかんねえのに
俺の言葉ひとつひとつを脳裏に焼き付けてるみたいに
じっと俺を見てる。
「……、わかったよ。場所は?」
『戴町の十字路にある喫茶店にいる。……すまない』
ここから歩いて2、3分てところか。
俺は通話を切り勢いよく起き上がった。それにびっくりしてけんたは尻尾を膨らませた。
「おいネコ!」
「ふにゃ、」
「出かけるぞ」
「でも。…ねむにゃ」
「るせえ、行くぞ。おまえの大好きなタクマからの誘いだ」
「タクマにいちゃっ?」
「ほら、コレに着替えろ」
けんたが外出する用に
もたもた着替えてるけんたのつなぎのジッパーを乱暴に上げて
フードをかぶして耳を隠す。
…と、フードにも耳がついている。
流石のやばさだな松田。
その上から尻尾隠しの長めのコートを羽織らせて、俺たちは家を出た。
何の抵抗もなく、夜の街をネコの手を引いて歩く。
まわりにゃただ普通に、年の離れた兄弟か、若い親子にしか見えないだろうな。
程なくして、
指定された喫茶店に着いた。
夜深い時間だからか、客はまばらで、
店に入ってすぐに篠倉と目が合った。
「よく来てくれた」
篠倉は微かに憔悴した表情でそう言った。
あんまり絵になるから、もはや芝居じみてて、俺は苛立ちの中で乱暴にけんたを先に座らせて自分も席に着いた。
「何だよ用件言え」
「…事情があって日本を離れる事になった」
「へえ、」
「健汰を頼む」
「んな大げさな」
「もしかしたら大変な事が君の身に降りかかるかもしれないんだ」
「……あ?」
「健汰を、頼む」
「たのむってなあに?いっしにいちゃ」
「……こいつ遠くに行くってさ」
「とおくって?」
「もう会えねえって」
「……」
意味わかんねえのか、けんたは目をまるくして呆然と俺を見た。
それから、篠倉の方を控えめに見ると、
心なしかけんたの、俺のすそを握る手に力がこもった。
「…健汰」
いとおしむように
どこかこの時間をかみ締めるように篠倉がけんたの名を呼ぶ。
けんたが
篠倉に触れたがってんのがわかる
いますぐ飛びつきたいのを我慢してるのもわかる
それでもけんたは、
ただ呆然と、それでも確かに寂しさを堪えていた。
そう、俺には見えた。
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