第15話
こんな嬉しそうな
安心しきった顔、俺に見せたことあるか…?
そう腹立ちながら、それでもふと思った
俺がもしあんな甘ったるい台詞言ったら
あいつ、俺にもあんな顔すんのか
いやむしろ
俺に威嚇なんかしねえ…それ…で
いや
…ばかかよ俺
「よお、インテリ変態、何しに来た」
考えんのがめんどくさくなって、わざと大きな声で篠倉に言った。
「いっしにいちゃ!!」
「………!」
昨日あんなひでー事言った俺の足元にけんたがぎゅっとまとわりついた。
振り払うのもめんどくさくてけんたを無視したまま篠倉を睨みつける。
当の篠倉はけんたが自分から離れると、孫が帰ってさびしげな老人みてーな…うまく言えねえけど、とにかくいろんな感情抱え込んだ複雑な表情でけんたの姿を見てる。
ただの落ちこぼれを心配してる顔じゃねえだろ。
わが子か…それか
まるで…
「やあ、お邪魔してるよ」
ぱっと、表情が変わったかと思うと篠倉はまた余裕綽々でそう言った。
「つれて帰る気になったかよ。このクソ出来そこないロボットさっさと回収しろ」
「さっきのは飼い主への忠誠心を試しただけだよ。見ての通り、君が傍にいるなら君が一番だろ。俺じゃ君の変わりにならない」
「嘘つけ」
「………?」
「完全に自分のもんにして、大事にしすぎるのが怖いんだろ」
「それは君だろう一新君」
「…なに?」
「離れる時が来るのがわかっていて、大事にするのが怖いのは君じゃないか?」
「そのままそっくり返すぜ篠倉」
しばらくオロオロしていた松田があせって間に割って入ると、
「おい一新!す、すみません篠倉さん!」と謝った。
「いや…いいんだ。また何かあったらすぐ連絡してくれ」
そう答えて篠倉はなんの未練もないように立ちあがるとけんたとの別れも簡単に済ませて、さっさと部屋を後にした。
あわてて駅まで送ってくると松田がその後を追って、俺とけんたが玄関に残された。
そこではじめて、足にしがみついてたけんたを振り払うと、
「入ってくんな、クソネコ」つって自分の部屋の扉を閉めた。
扉のちかくで、けんたが泣いてる。
『離れる時が来るのがわかっていて、大事にするのが怖いのは君じゃないか?』
るせえ…
『つらいなら俺と暮らすか。俺がまた昔みたいに可愛がってやるぞ』
『……、……おれ、いっしにいちゃが』
ああ、
…もう
「…………ッ!!」
扉を開けると、けんたは扉すぐ近くにぺたりと蹲って泣いてた。
それでも俺に気付くと懸命に顔を上げる。
そんなけんたを抱き上げて、部屋に入るとベッドに乱暴に投げて
それから
俺は、さっき篠倉がしていたようにけんたの口を塞いだ。
…んとに、
機械じゃないみてえ。
柔らかくて、温くて……
「ン……、ン…いっ…しに…ちゃ」
「黙れ……口あけろ」
「く、ち?」
「あんってしてみろ」
「…、あー…………ンッ」
「……俺以外にこんな事させるな」
「?…にいちゃ…?」
……ああッ…クソ…
「いい子でいるなら、俺が可愛がってやる」
「……お、れ、……いい子…す…ッ」
?
アレ?
おいおいおいおいっ!
こいつ…勃ってやがるんだけど!!
セクサロイドじゃねえって…
全然構造が違うって…
でも、勃つんだ……
「…お、お前勃つの?」
「にゃ……?ふにゃ、にゃ…」
「て、そりゃわかんねえよな」
とはいえ、やっぱセクサロイドじゃねえからか、ちょっとの間で落ち着いてきたみたいだ。
けんたは「ふうふう…」息荒げながら朦朧とした目で俺を見てる。
キスだけでこの有様か…
まあ、ここまでやっといて今更、
素直に言っちまえば
可愛い
…んだよな。
「にいちゃ、にいちゃ」
「あ?」
「…あ……あのね」
もう、腹くくるしかない。
しゃあねえ…
「なんだよ…早く来い」
「うにゃにゃ~ッ」
嬉しげにけんたが俺の胸元に飛び込んで、ぐりぐり頬を押しつけた。
気持ち良さそうに目を閉じてゴロゴロ喉鳴らしてる。
あ~あ…気を許すとコレだ。
でも
そうだな。
時間が有る限り、俺の出来る限り、
可愛がってやるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます