第14話

【残り161日】


バイト終わってここ最近じゃめずらしく、まっすぐ家に帰った俺は、玄関の前で鍵探してんのを着信音で遮られた。


松田からだ…

丁度いい

鍵バイト先において来てたら中から開けてもらおう。けだるく電話に出た。


『もしもし一新今ドコ』

「あ~、今…」

『今な篠倉さん来てるからお前も早く帰って来いッな』



しのくら…

あー…けんた作ったあのインテリ男か。そう思いだして、上着の内ポケットに何気なく手を突っ込んだら、馴染みある手触りの鍵が手に触れた。

あ、鍵あったわ…

俺は松田の言葉に返事をする前に玄関の鍵を開けた。

扉をあけるとそこには松田がソワソワした様子で携帯電話を片手に立っている。


「…なんだよ急に」

「わっ!一新、玄関着いてたんだ今日早いじゃん」


玄関には、綺麗に手入れされた高そうな皮靴がきちんとそろった状態で並んでいる。


「なんで、アイツが来てんだよ」

いつものように寝室のベッドに自分の荷物を投げ置くと、松田がなんか興奮したみたいに言った。

「俺が呼んだんだよぉ。まさか本当に来てくれるなんて思わなくて。けんにゃんはセクサロイドじゃないしさ。どうやって可愛がるのが正解ですかって聞いたの」

「…ばかかよ、お前」

「一新だって知りたいだ…ろ…」


そのままリビングに向かうと、ソファで篠倉の膝にけんたが座ってその胴周りにぎゅっと抱きついてるとこだった。

………何見せられてんの俺

隣で松田が、声にならない声上げて興奮してんのがキモい

角度的に、けんたからは俺は見えてないけど、篠倉は俺達と目が合うと、ゆっくりと口元に人差し指をかざして(静かに)と告げた。


やっぱり

教えてもない料理覚えてるだけのラッキーなバグなんてあるわけねえ…


篠倉と暮らしてた記憶全部、残ってたって事だよな。

じゃなきゃ、けんたがこんなに懐いてるわけない。



「健汰、つらいなら俺と暮らすか」

篠倉が、優しい声でけんたの頭を撫でながら言った。

「俺がまた昔みたいに可愛がってやるぞ」


けんたの背が少しの間固まって沈黙した。それから

「……、……おれ、いっしにいちゃが」と小さく言った。

「ん?」

「………、……」

「……やっぱり、あの時お前を手放したりするんじゃ無かったよ」

「にゃ……、」


けんたは篠倉の事を覚えてる。

沈黙がそう言ってる。

っつか、篠倉のが手放した未練大有りなんじゃん。

好みじゃないとか嘘なんだよな。自分でこんなもん作っといて自分好みじゃないわけがない。



「どうしたもっとこっちおいで健汰」

「うにゃ、でもにゃ」

「そんなに、一新君が気になるのか」


ちらりと、篠倉と目が合った気がした。

それからすぐ、篠倉がなんの躊躇もなくけんたの唇に口を近付けた。



「え、ちょい……」

松田が思わず声を漏らした。


キスしてる

俺の目の前で、けんたが。

よくわかんねえ男と。



「ん、………ン」


深く入り込まれたけんたから、存外艶っぽい声が漏れてるとか…

そんなんよりなにより


へえ…

俺なんかすげー…


最高に腹立ってんだけど





「ううわ、ちょ…い、いたいけなけんにゃんにあんな…エr…わ…きゃ~ッ」


最初何されてんのかわかんなかったのか、けんたは次第に耳と尻尾が倍ぐらいに膨らんで大きく「や!!!……ぅにャにゃッ」と鳴いてから

篠倉を突き放すと、全身の毛逆立てて篠倉を威嚇した。


離された篠倉は笑いながら、腹立つくらい余裕ある様子で

「これは駄目か。ごめんごめん悪かった。おいで、だっこしてやるから」

と言った。



「だ、…だっこ…?」


警戒しながらも、

少し嬉しげにけんたの尻尾が揺れてんのが見えた。


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