第13話
【残り162日】
ゆうこ先輩とのデートは、さくっとイチャついて(ゆうこ先輩の)賢者タイムすらそこそこに、毎度おなじみのパートタイム解散。
愛想はいいんだけど、ほんと、何考えてんだろ。
まー…いい思いしてんだから、別に、いいけどね。
クズの俺があんな美人と付きあえてんだから。
だけど
帰り道で買った缶チューハイが嫌に冷たくて、
風邪引きそうなくらい寒い夜空眺めてたら
これ以上抱き合う意味なんかあんのかな…てふと頭に浮かんだ。
なんだこれ。急にセンチメンタル病か俺は。
意味とか考えるのすらめんどくせえ…
気持ちよくしてくれりゃ万事よかったのに
いや、
いいはずなのに
家に着く前に、近くのコンビニで飲みほした缶を捨てるついでにもうひとつ缶チューハイを買った。
それをぐびぐび飲みながら、ほろ酔いで玄関戸くぐって家に入ると、松田のヤツが珍しく怒った顔で腕組みなんかして仁王立ちで俺を出迎えた。
何これ…
「おせえ!」
「……んだよ。てめえは俺のかあちゃんか」
「けんにゃん待ちくたびれて寝ちゃったぞ」
あー……
めんどくせえ。
俺は松田を一回睨んでから、玄関に腰掛けるとけだるく靴脱ぎながら言った。
「あっそ、俺居なくても飯は作ってんだろ?いいじゃねえか」
「けんにゃんなんか落ち込んでたぞ。何か言ったのかよ」
「けんにゃんけんにゃんうるせえんだよ!そんなに好きならお前が面倒見ろ!」
そもそも、松田があんなクソネコアンドロイドなんか俺に押し付けたりしなけりゃ、今頃ゆうこ先輩以外にも、いつもみたいにとっかえひっかえ
都合良い女ともっと要領よく付きあって
抱き合う意味なんか考える暇もないくらい心が満たされてたんだ。
くそ…
「なんだよ、苛々してさ」
「お前の態度がめんどくせえんだよ。あいつがアンドロイドだって忘れてのぼせやがって」
そう吐き捨てるように言うと、俺はいつもの松田のオタク部屋兼俺の寝室に入り、荷物をベッドに投げつけた。
あまりにも静かで、暗闇でもけんたがこの部屋にはいないのがわかった。
しばし、無意識にけんたの気配を探してる自分に気付いてまたイラつく。
その俺の背に松田が存外真面目な声で言った。
「いいじゃん……どうせ、いつか離れるなら、ちょっとの時間しか一緒にいられないなら、楽しい時間の方がいいって思うのおかしいことじゃないだろ」
………
「なあ、一新。そうだろ?」
「……けんたは」
「リビングのソファに寝てるよ」
リビングの扉を開けると、ソファにけんたが丸くなって眠っていた。
泣き疲れたのか目の周り真っ赤に腫れてる。
俺は、けんたを無遠慮に、半ば強引に揺さぶった。
「けんた、オラ起きろ」
けんたは「……にゃ」と鳴きながら目をこすると、ゆっくりと上半身を起こして俺を見た。
「……松田を心配させんなうぜえからよ」
「うにゃにゃ…」
「………」
「にいちゃ、怒った?」
「あ?」
「何…怒ってるにゃ?」
「何も。お前が何だよ」
「?」
「落ち込んでるって、何を落ち込むことあんだ」
「……オチコム…?」
「………はあ」
「?」
俺は溜息をついて俯いた。
体中の力が抜ける。
死ぬほどめんどくせえ……はずなのに、イラつきが一周してもはや丁寧に聞いた。
「昨日夜、いいたかった事を聞いてやるからいってみな」
けんたが耳をぴくぴくと瞬かせてから、少し悲しい表情になった。
はいはい。プログラミング上等上等。
「………おわかれの事にゃ」
「ああ」
「………うにゃ」
「……」
「お別れの日、絶対に、おれの後を追ってはいけにゃいにゃ」
「………」
「あとにゃ……おれのことを、忘れる方法もちゃんとあるにゃ」
「………」
「おわかれするまで、俺と、なかよししてにゃ」
にこって、
けんたが無理して愛想よく笑うから、
いっそ痛々しかった。
お前本当に飼い主間違えたよな。
俺じゃ飼い主の価値ねえよ。
素直に可愛がってもやれねえのに。
「けっ」
俺はその場に勢いよく立ちあがった。けんたが驚いて尻尾膨らませて「にゃっ」と鳴いた。
「……くだんねえ。俺は最初からお前と仲良くするつもりなんかねえっつうの」
「にいちゃ」
そのまま扉に手をかけリビングを出ようとすると、けんたが慌てるみたいに追って俺の足元にしがみついてくる。俺はそれを乱暴に引きはがすと「触んな、絶対俺のベッドはいんなよ」って睨みつけてリビングの扉を強く閉めた。
「にいちゃっにいちゃあ…も、はいんにゃい。だから怒ったらヤにゃあ」
廊下に出てもけんたの泣き声が響いていた。その声の中で松田が俺の腕を引っ張った。
「なんだよ」
「あんなのひどすぎるだろ。けんにゃん可哀想だよ」
「うるせえな、口出すな」
「……可愛がってやれよ」
可愛がる……
俺が、けんたを……?
そんなん
できるもんならとっくにやってるよ
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