第12話
深夜、目が覚めた。
あー…腹がめちゃくちゃ重い。
金縛り
じゃねえんだろ、わかってる。
俺は勢いよく毛布を両腕で持ち上げた。
俺の腹の上で丸くなってたけんたが、びくっと俺を見上げた。
暗闇に目がキラキラ光ってる。
「クソ重いと思ったらやっぱりお前か。そっちにお前のベッドあるっつってるだろうが」
俺がそう言ってる間に、ぐずぐず言いながらけんたは構ってほしいようなしぐさでぐりぐり俺の胸元に額をこすりつけた。
「うぜえ、寝かせろよ」
そう言うと、俺はけんたをムリヤリ腹から押しやり背を向けた。
背中で小さく悲しそうにくうくう鳴いてたけんたが堪え切れないように「怖い夢見たにゃ、にいちゃあ…」と言った。
けど、無視だ、無視。
飼い主様はバイトで激疲れなの。
駄ネコの面倒なんか見る余裕ないの。
「…ぐしゅぐしゅ…」
こんな容易な構って攻撃に負ける飼い主様じゃあねえ…
「…こわにゃ…やにゃああ…」
そんな…チョロい飼い主…様じゃ…
「いっしにいちゃあ…」
………
「あ~ッ!!もううるせえッ」
振り向いて、けんたの腹を力一杯ボンボン叩いてやった。
子供のあやし方なんか知んねえし、
加減もわからない。
けどけんたは、それでも少し安心したように、涙目で俺をじっと見ていた。
「……怖い夢ってなんだ」
「にゃにゃ、おぼえてにゃい…」
「なんだそりゃ…くそ、じゃあ大人しく寝ろ」
「……にいちゃ、今日言わなきゃいけない事あるにゃ」
「?………なんだよ」
「………おわかれのこと」
「………」
おわかれ……
ああ、こいつが180日で自然停止するってアレか?
………なんで今
「……おれが、おれがもしいなくなってもね」
俺は、
そこでピンと来た。
それから、無性に腹がたって、けんたの身体にかかってた毛布も自分の方に全部ひっぱってけんたに背を向けた。
「…るせえ、聞かねえよ。黙って寝ろ、クソ」
なるほどな。
これ、あれだ
松田が好きそうな、美少女恋愛シュミレーションゲームでよくあるお誕生日のイベントみたいなもんだろ。
わかってるはずなのに、
俺、いつのまにかけんたが、寒がったり、痛がったり、寂しがったり…
温もりを欲してるんじゃないかと期待してたんだ
そんな自分が、途端ばかばかしくなった。
「………にいちゃ」
俺はそのけんたの声に、今度はもう振り向くどころか反応もしなかった。
そうしていると、
そっとけんたが俺に近づく気配があった。
それから、耳をふうわりしたもんが横切って、頬に柔らかな何かが触れた。
俺は、一瞬何が起きたかわからず、つぶっていた目をあけて思案したけど
、確かに唇の感触が頬に残っている。俺は勢いよくけんたの方に振り向いた。
「……、…なんだよ」
「……にゃ、」
「今なにした」
「ほんとは……にいちゃ離れるの、やにゃおれ、ずっとずっと…一緒にいたいにゃ」
「………、意味わかんね」
「……おわかれ、やにゃ……おれ」
「………」
暗闇のせいか
それとも距離のせいか…
温いのがわかる。
熱が伝わる。
可笑しいよな、自分でも笑っちまうんだけど
その瞳に、その涙に、その吐息に、その身体に
嘘がなかったから抱きしめたんだ。
「うるさいっつってんだろ」
「………」
「んなの、まだ先の話だ。」
「うにゃにゃ、…でもにゃ」
「……るせえ、寝ろ」
「……にいちゃ」
「………」
「いっしにいちゃ、すき」
「…………っ」
そんな風に何度も、泣きながら呼ばれて俺は
けんたが
俺の名を呼べないくらい、そんな言葉を吐けないくらい
強く抱きしめた。
こんなに邪険にあつかってる俺に、
すき…か
なんで、こんなことゆうんだろなって
考えなくたってわかる。
いや、わかってる。俺は忘れてなんかないんだ。
こいつは機械で
感情はインプットされてるだけなんだって事を…
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