第11話
けんたが作った松田の好物を三人でたいらげると、まるで電源がいきなりオフになったみたいにけんたはソファーで眠ってしまった。
腹いっぱいになったからか、慣れない作業に疲れたのか
軽く揺り動かしても起きる気配は無い。
そんなけんたの顔を見つめながら松田が呟いた。
「可愛いな~まじ可愛い~」
「…おい変態。早く起こせよクソネコをよ」
「クソっていうなよ~こんな可愛いのにねえ」
松田は、そういいながらけんたの額を撫でた。
けんたはのびをすると、また静かに寝息をたて始める。
そんな一挙手一投足にわあわあ声あげて喜ぶ松田の背に俺は半分呆れながら投げ掛けた。
「じゃあ持ってけよ」
振り向いた松田の目はキラキラ…いやギラギラひかってる。
「いいのかよ~おいッ俺いろいろやっちゃうよおッ」
興奮した声と、異様なそのテンションに反応したのか、けんたは「うにゃ…」つって寝ぼけ眼で言いながら身体を起こし、目をこすった。
そのまま松田はけんたを抱き上げると自分の寝室の方に向かっていく。
「今日はこっちのお部屋だよ~」
「にゃにゃ…」
覚醒しきってないのか、とろーんとした目のまんまのけんたは、あろうことか変態松田の首もとにぎゅっと手を回した。
「わ、わっ…寝ぼけてらッ!かわいッ」
「っけ」
「一新、うらやましいんだろー」
「勝手にやってろよどへんた~い!」
「にいちゃ」
「んー?どしたのかなぁ?けんたにゃーん」
「…いっしにいちゃ」
そうはっきり言うと、けんたはまた松田の首もとをぎゅっと包むみたいに抱きこんだ。
しばらく変な沈黙のあとで、松田がポツリと呟いた。
「うらやましいぜ…」
「うにゃッ…かね…?」
はっきりと覚醒したけんたは、状況がつかめないのかかすかにオロオロした様子で松田を呼んだ。
松田はにこにこいつもの笑みを浮かべて「今日は俺の誕生日だし、俺とねんねしよね」って言いながらけんたを抱きかかえたまま寝室に歩き出した。
でも肝心のけんたが思い切り暴れてその腕から逃れて俺の所に走り寄ってくる。
「うにゃッいっしにいちゃあ」
「たまにゃその変態と寝てやれよ」
「やにゃあッ」
寝起きのぐずりも重なったのか、ぼろぼろ涙をこぼして泣き始めた。
かと思うと、俺の足もとからぎゅっとしがみついて、俺の身体をおおよそロッククライミングみてーにのぼってくる。
「いててててッおま、爪!爪っ」
「いっしにいちゃ、がいいっ」
「………」
あっけにとられる俺とけんたを眺めながら、松田が呟いた。
「篠倉さんが言ってたとおりだな…」
「あ?」
「飼い主とのつながりは絶対なんだ」
なに、
言ってんだ松田のヤロー…
「………っけ」
呆然と立ち尽くしてた松田がいきなり、ハッと窓を開けると夜空に向かって大声で叫んだ。
「待ってるぜ~ッ!!!俺のマサムネー!」
いやいやいや、超高層とまではいかないけどそれでも夜空を遮る民家やマンションもない階数の門部屋とはいえ、さすがに近所迷惑だろ…
って…ヘンな心配しつつも突っ込まずにいられなかった。
「まさむね?」
「おうっきまったんだよッようやく俺の猫耳セクサロイドちゃんがさッ☆」
俺たちの方に振り向いた松田はおそろしいほど寒いポーズと表情でそう言った。
………
「………寝るぞ、けんた」
「うにゃにゃ」
「えっ…ちょちょちょちょと!いっしん!けんたにゃーん!!」
部屋に向かう廊下で、腕の中でまだぐずついてるけんたの表情をちらりと見た。
それに気付いてけんたが懸命に俺を見上げようとしたのが仕草でわかって俺はすぐに目をそらした。
『飼い主との絆は絶対なんだ』
…か
「バカくせ…」
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