第10話
【残り163日】
バイト終わり、玄関の扉をあけると俺の足音でも聞こえたか、けんたが玄関までの廊下を息切らして走り寄ってきた。
「いっしにいちゃ!」
「……おー」
なんか妙にテンション高いけんたに、適当に答えながら靴脱いでると、ぐいっとその腕をひっぱってくる。
「はやくはやくっ」
「んだよ、るっせ」
「お腹すいたにゃ?すいたにゃ?」
「……、?」
ひっぱられるままにリビングに向かうと、食卓にはいつもよりも豪華な食事が用意されていた。
ハンバーグステーキにからあげっつう、ちょっとバカみたいなラインナップだけど、どれもうまそうだった。
真ん中にはイチゴののったワンホールケーキまである。
「おめでとにゃ!」
「………、なんだこりゃ」
「1月10日!にいちゃたんじょびにゃ!」
「……ちげえよ。おれは」
てめーが転がり込んできたクリスマスイブだよ…
あきらかに不満そうに口をつぐんだ俺に、けんたは違和感を感じたか急に焦り始めた。
「え?」
「けっ…誰と間違えてんだっつうの」
「……うにゃ、……間違い……違うにゃ」
混乱するようにしていたけんたは、ぽろぽろ涙を落とし始めて、それすら自分で理解できないのか「……う、うにゃ!?」と驚くようにその涙を手のひらで掬いあげてはおろおろその場に立ち尽くした。
「……何泣いてんだよ。おかしいんじゃねえのお前」
「おれま、間違うわけないも」
篠倉の…誕生日だったりな
そう思ってたら、玄関から扉が開く音がして間もなくして見慣れた眼鏡野郎がご機嫌にリビングまで跳ねて来た。
「ただいま~(*^u^*)俺のハニーちゃんッはいおみやげ~!」
つってなぞの小箱をけんたに投げて渡した。
うまいことキャッチしたけんたは「またたびにゃ」と言ってしばらくその箱をクンクン嗅いだ。
つうかハニーちゃんて…。酔っ払ってんのかもしれないけど、相変わらず拳で突っ込みたくなるウザさ。
「なんだ松田、ハニーちゃんて、ぶっ飛ばすぞ」
「あれッあれあれあれっ!?」
「んだよ。うぜえ」
「もしかして俺の誕生日祝ってくれんの?」
……ん?
「松田、お前今日誕生日だっけ」
「そうだよお!わああッしかも俺の好きなもんばっか~けんたにゃんありがとッ(^3^)♪」
ムリヤリ抱き寄せてけんたの頬に唇を寄せる松田から、けんたは「うにゃにゃッ」て言いながら逃れるように暴れた。
……いやいや、つうか…
「なんでお前の誕生日に俺が祝われてんだよ」
「え?」
「にゃ?」
しばらく思案顔だった松田がハッとした。
「そうだ!」
「?」
「そういや基本設定を買う前に出しといたんだった」
「じゃあなんで俺に懐いてんだよ」
「俺が聞きたいよ。んなの」
「他にどんな事かかされんだそれって」
「名前だろ住所電話番号に身長体重…好きな食べ物と好きなタイプ。くらいかな……あッ!」
「にゃうっ」
あまりに急な大声に、近くにいたけんたが驚いて飛び跳ねて、そしておびえるように俺の後ろに隠れた。
「何だよ!びっくりすんだろ!」
「いや、なんでもね……早く食べようぜ!せっかくつくったんだもんね~けんたにゃんが!」
あきらかになんかあんだろって気付き方したくせに、松田はにっこり微笑むとすぐに食卓についてそのハンバーグを頬張り始めた。
なんなんだよ…こいつ。
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