第8話
【残り166日】
次の日の夜、バイト終わりに松田に呼びだされた。
昨晩けんたがつぶやいた電話番号に松田が電話をすると、とある男と連絡がとれて即会う運びになったらしい。
松田から指定された、家の近くにあるファミレスに着くと、入口すぐの席に外出用の耳隠しの帽子かぶって「うにゃうにゃ」言いながらパフェ食べるけんたとソレ見てニヤついてる松田がいた。
「なあ一新みろよ~可愛いな~(*^^*)」
「あのな、何で俺までその謎の男に会わねーといけねえんだよ」
「何でって、飼い主はお前だろ一新」
「なすり付けられた上、当のクソネコ本人は認めてないけどな」
「まあまあ、そのタクマってのが来るってんだから、話を聞こうじゃんよ。そろそろ時間…あ、あれじゃねえ?………あれ……え?」
現れたのは…
なんつうか俺と、多分松田の想像してたのとは、正反対の超エリートそうな好青年ってヤツで…
けんたのヤツもかくしてる尻尾ぴくぴくさせて「タクマにいちゃ!」なんつて飛びついてくし
それをそいつが我が子みてえに抱き上げて、
「健汰、いい子してたのか?」
なんて…
頬ちゅーくらいしそうな勢いだ。
………なんだコレ。
「と、突然お呼び立てしてしまってすみませんッ僕ら光成大の学生でして」
松田が隣でド緊張しながら直立不動で言った。
それをイラッとするぐらい穏やかな笑顔で返すと、その“タクマ”はけんたに少し目をやってからまた俺たちに目線を戻して言った。
「健汰がわがままを言ったのでしょう。本当にすみません」
「おれわがまま言わないにゃ」
けんたはそう言うと、ぎゅっとタクマの首に抱きついた。
あーあ…
何見せられてんだよほんとに
「……正しい飼い主が見つかったみてえだし帰ろうぜ松田」
俺はそのまま歩き出した。
「お、おい一新!」
「待ってください!」
“タクマ”の声に俺は足を止めた。
てのも、あんまりに清廉潔白そうな声に吐き気がしたからだ。
「健汰の飼い主には一人しかなれないはず、どちらが飼い主に…?」
「……俺だけど」
振り向いて俺が答えると、“タクマ”はけんたを静かに下ろすと笑顔を消して真面目なトーンで言った。
「それは……気を悪くされたでしょう。本当に申し訳有りません。僕は、この猫耳シリーズアンドロイドの企画制作者の一人で篠倉琢磨という者です」
「そうなんっすか!!!いやあ実は、俺セクサロイドタイプを一体おたくに注文してて」
松田が浮かれてその場ではねてる。
「そうか、でも残念だな。僕はセクサロイドタイプについてはノータッチなんだ。仕組みに断然違いがあるからね」
それを聞いて必死に真面目な顔作りながらもにやけ顔がはみだしてる松田は、「へ~体の仕組みにね!」と腕をくんだ。
もうそこに就職させてもらえ。ど変態め
俺は仕方なく、席に戻った。
店中で注目されんのが面倒だったからで別に話が聞きたかったわけじゃないけどな。
「僕は猫耳幼児タイプアンドロイドのキャラクター設定の統括で、様々なアンドロイドを手がけてきたけれど、その中でも健汰はなかなか実践に出してやる事が出来ずにいたんだ」
「自分の好みすぎてか?」
「どうかな?…心配という点ではそうだったかもしれない。試用という事で僕が最初の飼い主になったんだ。一日のダウンでこんなエラーが出てしまうなんて…本当に申し訳ない」
篠倉はそう言うと頭を下げた。
「いいよ、丁度面倒だったところだ。引き取ってくれよ」
「…そんな事を言わないでくれ。君が試用後初めての実践としての飼い主になるんだから。」
「だけど本人が俺は嫌なんだとよ」
「少し、待っててくれ」
篠倉は鞄からおもむろにノートパソコンを取り出した。
どういう仕組みなのか、そのパソコンからけんたの体内の状態は鮮明に可視化されているようだった。
「記憶を蓄積する部分に水がたまったみたいだ。大丈夫、すぐに水を吸い出す記号を送ろう」
しばらく篠倉がパタパタとキーボードをたたく音だけが響いたが、間もなくして、けんたが倒れるようにがくりと眠りについた。
「…俺がまた、飼い主になるって事かよ」
「少し、後遺症が出てしまうかもしれない。だけど、飼い主との絆はなにより強固なものだから君が不信に思う事は何一つとしてない。何かあったらすぐに連絡してくれ」
そう言うと篠倉は名刺を俺の目前にそっと置き、手早くパソコンをしまうと俺たちの分も会計を済ませて去って行った。
あまりにもあっという間の出来事に呆然とした俺と松田をよそに、けんたはもう小さく寝息をたてている。
「何を不信に思うってんだ……夫婦の浮気じゃあるまいに」
ぐっすり眠ったけんたを見ながら、俺は呟いた。
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