第1話 別れ①

「ごめんね、ごめんね…。」

 どうして。

「お母さんがこんなんだから…。」

 なんで。

「葵には今まで辛い思いばかりさせてきたよね…。」

 なにを言ってるの。

「こんなお母さんでごめんね…。」

「いい加減にしてよ!」

 もう限界だ。早くこんなとこから出ていきたい。

「最初から私なんて産まなきゃ良かったんじゃない!離婚したいならさっさとすれば!?」

 ───言った。もう悔いはない。


 お母さんの表情を確認する余裕もなくそのまま家を飛び出した一昨日の夜11:48。

 空はやけに真っ暗で、あたりは静まり返っていて、秋を感じさせる冷たい風が、よりいっそう孤独を感じさせた。




 家出。いつぶりかな、なんて呑気に考えてみたりしたけど、先を行けば行くほど夜の闇に飲み込まれて行くようで、私の足はもう動けなくなっていた。こんな片田舎には街灯なんてたいそうなものめったになくて、田んぼと田んぼの隙間を埋めるように建つ家の明かりぐらいしか目印になるものはない。

 さあ、これからどうしようか。

 飛び出したはいいが私にはあの家しか行く場所はない。お母さんが今どんな気持ちで何を思っているのかはわからないけれど、私はお母さんもお父さんもいなくなったって一人で生きていけると心の底から思っていた。ただ場所がないだけ。さあ、どうしようか。

 鈴虫の鳴き声。木の葉が擦れる音。私の波打つ心臓の音。

 ───家に、帰ろうか。

 謝る気なんてないけど意地を張り続ける気もない。どうせ何も無かったかのように明日の朝が来る。そう、いつも通りの毎日。『日常』。


 私は足の向きを180度変え、帰路につく。手をポケットにつっこみ、早く学校に行きたいな、なんて考えていた一昨日の…いや、昨日の深夜0:38。




 あの時の私に何か声をかけるとしたら、ただ一つ、これを言おう。

「今を、大切に。」

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