泡林檎
綾
第1話 泡林檎
「愛してる───。」
私達がその言葉を交わすには
余りにも空々しく重たかった。
そんな言葉を発したこの人は
私を使って真っ白なシーツに
真っ赤な林檎を描いて言った。
「……はい、じゃあ約束の3万。」
捨てるようにそれだけを置いて
足早に去っていってしまった。
────────
思っていたよりも呆気なくて
現実の味すらしない。
消えない異物感と握りしめた紙切れ 、
目の前に転がったコンドームが
何かを語りかけてくる...。
次第に涙が溢れ出てきた。
あの一瞬の他に何の
意味も持たなかったであろう
軽々しいその言葉に腹が立った...
いや、違う.........。
それよりも、そんな言葉に
不覚にも幸せを感じてしまった
自分が惨めに思えたのだ。
寂しい...それだけだった。
言葉なんて要らなかった。
「 さようなら...。」
空は冷たいブルーの色を
していて、そこに海を連想した少女は
目を閉じたまま泡に包まれて
消えてしまった。
────END
泡林檎 綾 @candy_xxx_burst
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