1章_4
「しばらく家を空けるから、留守をよろしくねロバートソン」
そうモアネットがロバートソンに告げれば、
その姿はまるで「俺に任せろ!」と言っているかのようではないか。そんな友情がまた別れの悲しみを増させるが、この古城を彼が守ってくれると考えれば胸に
なにより、帰りを待ってくれる人──蜘蛛──が居るというのは何とも
「森で迷った人が入ってくると思うけど『蜘蛛は殺さないで』って注意書きをしておいたよ。でもあんまり人の前に出ないようにしてね」
約束だよ、とロバートソンに告げる。
モアネットがどれだけ友情を感じていようが、彼は蜘蛛だ。ふっくらとしたお
とりわけロバートソンの
注意書きをしたが不安は残る。だからこそ気を付けてくれと念を押すように
だが出発せねばならない。
そう決意し、モアネットが
ギィと音をたてて扉を押し開き、最後に一度
「じゃぁねロバートソン、
と声を掛けるのは、旅を終えて帰ってきたらロバートソンが食べられていた……なんて悲劇を
げに
「ロバートソンの友達が雌だったら?」
というアレクシスの質問に、モアネットがその可能性はないと首を横に振った。
静かな森の中、カシャンカシャンというモアネットが歩く音に、ギコッギコッと首を振る音が重なる。自分が発する音ながらなんとも
「異性を連れ込まないようロバートソンと約束したんです」
「健全だね」
「目の前で
「……あぁ、蜘蛛だもんね」
なるほどと
ロバートソンは友達だ。
だが蜘蛛なのは事実で、雌と交尾をすれば捕食される可能性もある。悪い雌蜘蛛に
そんなモアネットの姿に、無理に連れ出してしまったことに罪悪感を覚えたのだろうアレクシスが謝罪の言葉を口にしてきた。ごめんね、と
彼の隣に立つパーシヴァルは言葉にこそしないが、出発の時点で何も言わずワインとトランクを持って歩き出した。彼なりの感謝か
いっそ首輪でもつけて引きずってくれた方が割り切れたかもしれない、そんなことを考えつつ、モアネットがポシェットから羊皮紙を一枚取り出してペンでサラサラと
もちろん
「森を
羊皮紙が無くなっちゃう、そうぼやきつつモアネットがポシェットを
古城にあった羊皮紙をありったけ持ってきたが限りはあるし、そもそもモアネットが
古城で生活し古城で
それだってたまに切れて、一人古城の中で鎧の重みに負けて
とにかく、モアネットの呪符には
「ずっと
「分かった。地味に痛いけど我慢するよ」
「王子、そういうのは
「
「いや毒があるか無いかの話ではなく」
アレクシスの腕から蛇を払い落とし、パーシヴァルが
そんな彼と、嚙まれた腕を
「獣除けはあくまで獣だけです。毒のある虫には効果が無いので気を付けてください」
「モアネット
「前に
「……モアネット嬢、もしかしてそれは大きくてピンク色の蛾か?」
「えぇ、そうです」
「羽が分厚くて、ふかふかして、
「そうです。パーシヴァルさん、見たことあるんですか?」
「今、どこからともなく飛んできて王子の肩に……」
次の瞬間アレクシスが前面へと
「アレクシス様、大丈夫ですか?」
モアネットがパーシヴァルに
これはまずいとモアネットが慌ててポシェットに手を掛けた。毒消しの魔術は知らないが、それでも何かしら術はあるはず……と、かつて読んだ書物の
だがそんなモアネットに対し、アレクシスが
「でも、アレクシス様……」
「大丈夫、これぐらいの毒なら一週間に一度は
「そんなこと……け、結構な
モアネットが思わず返せば、アレクシスがぼんやりとした表情ながらに頷いて返してきた。「もう慣れたよ」という言葉は聞きようによっては心配させまいとしている
「パーシヴァルも心配し過ぎだよ。
「毒は毒です。というか、俺まで慣れたらもう終わりですよ……」
これはどちらに同情すべきか……とモアネットが二人を
そこまで考え、モアネットがはたと
何を
これではまるで心配しているみたいじゃないか。
「問題ないなら、さっさと行きましょう」
「……モアネット嬢?」
「アレクシス様が歩けないならパーシヴァルさんが背負ってください。こんなところでひっくり返ってたら
ふんとモアネットがそっぽを向く。その際に
そうして歩き出せば、背後でアレクシスとパーシヴァルが
「虫の毒は長く続くのが難点だね。その点、嚙まれる瞬間は痛いけど
「ソムリエですか」
そう話しながら森の中を歩く。
といってもいまだ毒蛾の
もっとも、大変そうではあるがパーシヴァルの歩みが
だがいかにパーシヴァルが平然としていても背負われている身としては気を
「パーシヴァルごめん、重いよね」
「いえ、お気になさらず。痺れが残っているとはいえ大事無いようで何よりです」
「大事無いってさ。蛇君、いっちょ一回嚙んでおやりよ」
ほら、とモアネットが
なんとも言えない情けない悲鳴があがり、パーシヴァルが慌てて蛇を追い払おうとアレクシスごと
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