第5話

俺はうっすらと目を開ける。そこは机とベッドしかない…。そうだな…。初めて来た時の寮の部屋みたいな所だった。

ここは…っていうか俺さっきまで何してたんだっけ…?


そう思いながら体を起こそうとしたが手が縛られていてそれは叶わない。

…って、なんで縛られてるの?


「んー!んー!」


声を出そうとしたが口を布か何かで塞がれてるらしくそれも叶わない。

ついでに足まで縛られてるじゃないか。


「んー…!?」


「あぁ、起きたのね」


いきなり後ろから聞こえた女性の声に俺は肩を揺らす。

ゆっくりと振り返るとそこには予想通り女性がいた。


「どうして素直に捕まってくれなかったのかしら。おかげで私が動くことになっちゃったわ」


その言い方だと…まるで共犯がいるような…。っていうか俺が捕まってたって話を知ってるってことは今回の犯人!?


「んー!!!」


「…少し黙ってくれない?あの子が帰ってくる前に終わらせたいの」


俺は女性の声が低くなったのを感じ取り少し黙る。何かされたらたまったもんじゃない。

…でもあの子って誰だ…?

外からドンドンと2人くらいが廊下を走る音が聞こえる。


「奏ー!!」


「ほんとに、どこに…」


一夜と八代!

俺はその二人の声にここがどこだか理解する。さっき思った通りここは寮の部屋だ。そしてここに共犯と思われる人がいるということはこの部屋の住人が犯人…。なにかここの住人の手がかりは…。


「うるさい虫ね…」


俺は必死に目を走らせるがその部屋はほとんど、というか全く手をつけていなくて手がかりなんてものはない。


「…」


なんとかこの状況を打破しないと…と考え込もうとした時、一夜の大声が響く。


「犯人がわかったんだ!奏!」


「っ!」


「なに…?」


「犯人もっ、ノーザンアースの出身だったんだ…!」


ノーザンアースの出身…?

でもノーザンアースからは俺と朝霞しか…。


「僕、ちゃんと確認したんだ。みんなの出身の惑星!」


「…!」


「そしたらっ…ノーザンアースの出身でっ奏って!もう1人いたんだよ!」


「っ!?」


「ふふ…そこまで気づいたのね…」


女性が怪しげに笑う。

俺と同じ名前が…もう1人…?でも俺そんな名前…いや。

あの失態の後落ち込んで全然他の人の名前とか聞いてなかったからその間に…。


「まさかとは思うが奏!もしかして103にいるのか!?」


103…?

103と言えば俺の部屋の隣だ。名前は…えっと…あれ?俺隣の部屋の人の名前知らない…?

そうだ。俺があの張り出された紙を見たのは2度。1度目は朝霞が見てくれて、2度目は一夜と八代の名前だけを探していたから…。


警備隊に電話した人が犯人…それが本当に俺じゃないノーザンアースの奏だとしたらその人は俺を犯人にしたかったのか自首をしたのか…。後者だとしたら、警備隊が俺とその子を間違えて…?

そうだ…。警備隊は犯行を否定する俺を不思議そうに見ていた。その理由はきっと…。


女性は諦めたようにため息をつくとポケットから何かを取り出す。

その何かは__爆弾だった。

その爆弾は手作りなのか、赤いコードがチラホラと見えている。


「もうこうなったら私もあなた達もここで終わりね。あの子を犯人にするわけにはいかないの」


「っ!」


「友を殺した罪悪感から爆弾で自殺…この爆弾威力強めだから跡形も残らないわよ」


女性のその言葉に驚愕し、俺はなんとか阻止しようと手足をばたつかせるが拘束は解けない。辛うじて口の布がパサっと取れる。


「ぷはぁっ」


「っ!」


「一夜!八代!ここから逃げて!」


「黙りなさい!あいつらが逃げれば犯人がわかってしまう…!」


「奏っ」


「やっぱり103に…!」


「俺はいいから!2人は逃げて本当の犯人を見つけてあげてっ!!俺の予想が間違ってなければその子はきっと__」


「うるさい死ねっっ!!」


女性が大声をあげて俺を殴る。

さっきからじんじんしてたところを殴られ、俺はあまりの痛さに顔を歪めるが引いてたまるかと女性を睨みつける。


「俺は死んでもいい!だけど残されたその子は!?」


俺がそう言った時、扉が蹴られる音がする。そしてその後に2人の声。


「待て奏!」


「そうだよっ…!奏も死んじゃダメだよ!」


「…でも俺、やっぱ朝霞無しじゃ心細くてね…?」


「やめろよ…」


「それに…俺と同じで朝霞は寂しがり屋だから1人は寂しいと思うんだ。昔からそうだもん。ずっと2人、一緒だったから…」


「奏…でも、でも僕達は…」


俺は八代の言葉の続きを予想して__顔を振る。

わかってる。わかってるけど朝霞が1人になるのは、嫌だから…。


「何言ってんだよ…。1人じゃない…!」


「…一夜」


一夜が声を荒らげる。

あんなに静かな印象なのにこんな声も出せるんだ。

こんな状況なのに呑気にそんなことを考えてしまう。


「俺らがいる!だからお前は1人じゃないし…朝霞もきっと…」


一夜が言葉を詰まらせる。

八代のすすり泣きまで聞こえてくる。


「…2人とも、ありがとう。でも俺__」


言葉の続きを言おうとした俺の声を遮ったのは昨日聞いたばかりの凛とした声だった。


「その必要はありません」


「誰…!?」


「あ、あんたは…」


一夜の驚いた声が聞こえる。

そして扉が__蹴破られる。飛んできた扉を紙一重でかわし、俺はその入り口の方を見る。

そこにいたのは…真綾先生だった。


「ま、真綾先生…!?」


「今縄を解いてあげるわ。奏くん」


「どうしてここに…!」


「…もちろん。生徒を守るためよ」


真綾先生は真っ直ぐと俺の目を見る。

その綺麗な瞳に、俺は確かに憧れを覚えた。


「…じゃあ、あの子が…自首を…?」


女性は腰が抜けたように床に座り込む。

その手から爆弾がころん…と落ちる。真綾先生はそれを持つとスカートのポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し飛び出ている赤いコードを切る。


「奏!」


「よかった…大丈夫…?」


一夜と八代が俺を立たせてくれる。

俺は確かなその床の感触を足の裏に感じ、うん、と頷く。

そして女性を見る。

俺は知らなくちゃいけない。みんなに助けられちゃったしね…。


「どうして…どうしてその奏くんは…朝霞を…」


声が震えてる。

やっぱり聞くのは怖い…。でも、朝霞のためにも聞かなくちゃ。


「…うちの子は…空気が薄かったの」


女性はそう話し始めた。

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