第4話

「よし。行くか」


そう言って一夜が早歩きで歩き出す。

俺と八代は急いでその後を追う。


「行くってどこにっ」


「決まってる。殺人現場だ」


「現場…ということは朝霞のとこ…?」


「うむ。少し酷かもしれんが…」


一夜がそう言って足の速さを遅める…が俺は逆に早足で前に出る。


「大丈夫。俺は朝霞の幼馴染だから」


俺のその力強い声に2人も笑顔になった。



寮には誰もおらず食堂にはラップがかけられた俺が残したまんまの朝食が残されていた。


「今はみんな学院に…警備隊は?」


「この学院の生徒がいる学生寮に入るにはそれなりの手続きが必要だ。しかし、さっきのは勝手に入ってきたようでな。手続きに丸1日かかると警備隊がボヤいていた」


「誰かが通報したわけじゃないの?」


「そのはずだ…。だが、警備隊も現場を見ていないときた」


「どういうこと!?」


「誰かからの通報で…奏が犯人って、言ったのかな…」


八代がそう言って眉を下げる。


「そうかもね…とりあえず朝霞の部屋に行ってみよう」



俺は朝霞の部屋を開けようとするがガッと何かが突っかかったように開かない。

そういえばこれは本人の学生手帳がないと入れないんだっけ…。


「どうしよう…」


「あ、あの…」


「どうしたの?八代」


八代がおずおずと前に出て、鍵を見る。


「開いたら、いいんだよね?」


「まあそうだが…ふむ。どうしたものか」


「なら…任せて」


八代の言葉に俺と一夜は首を傾ける。

任せてって…八代の生徒手帳で開くわけないしどうする気だろう…。

と、八代の行動を見ていると八代はいきなり鍵のところをすごい勢いで殴る。


ドォン!!


大きな音を立てて鍵は壊れぴぴー…という音と共に扉が開く。


「や、八代…」


「僕…力には自信があるんだ…!」


そう言って八代が笑う。

俺はそれに苦笑いしながらお礼を言う。


「と、とりあえずありがとう。入ってみようか」


俺がそう言うよりも早く一夜は部屋の中に入っていく。


「…これは…」


「なになに?どうした__っ!?」


一夜は俺を部屋に入らせまいと手を出すが一足遅く俺は"それ"を見てしまう。

そこには当然だが朝霞がうつ伏せで横たわっていた…がその姿が異様だった。


手には食べかけのリンゴが握られ、頭から足…全身にかけて刃物で滅多刺しにされていて、刺されてから時間が経っているのか血が茶色く変色している。特にひどいのは心臓の位置だった。


「…朝霞…」


俺はその朝霞の姿に吐き気を催すがなんとか抑えその姿を再度目に焼き付ける。


「ひえっ…確かに、朝霞さん、だね…」


「うん…そうだね」


「凶器は見当たらず…そして刺し傷は体の前にはない」


一夜が手を布で覆いながら朝霞の体を動かしその傷を確認する。


「傷は全部後ろ…とすると知り合い…かな」


「ノーザンアースから来たヤツは他にいないのか?」


「うーん…いなかったと、思う」


「一応名簿…確認してくるね…!」


八代がそう言って部屋を小走りで出ていく。

一夜は少し朝霞を眺めてから俺を見る。


「俺も他に何かないか見てくる。1人で大丈夫か?」


「うん。大丈夫。早く犯人を見つけなくちゃね!」


「…わかっている」


一夜はそう言って早足で出ていく。

俺は朝霞…だったものとその場に残される。俺はまた朝霞を見る。

こんなに刺されて…しかも知り合いに死ぬまで刺されるなんて…ううん。死んだ後もきっと刺し続けてる。抵抗のあとがないからきっと心臓一突きで意識が飛ぶのは一瞬だったんだろう…。


「痛かった、だろうな…。あ、でも一瞬だったら痛みなんて感じなかったかもね…」


俺は目の奥がまた熱くなるのを感じる。

だめだ。ここで泣いたらだめだ。朝霞を殺した犯人を探さなきゃいけない。

こんなところで泣いていられない…!


「待っててね朝霞。俺、頑張るから。朝霞なしでもやってけるとこ、見せてあげるから…!」


タイムリミットは生徒が帰ってくるまで…。今日は授業が終わるのが早い…。なんとかそれまでに決着をつけないと…!


俺はギュッと手を握りしめ、そう決意した。



僕は朝霞さんの部屋を出たあと自分の部屋に行き、入学式の時にいろいろなものと一緒に配られた全生徒の紙を見る。


「えーと…ノーザン、アース…」


そして出身の星の欄の所を指でなぞりながらノーザンアースの文字を探す。最初にその文字を見つけたのは…奏の欄。


「うん…奏はノーザンアース…よし。次…!」


そのまま探し続ける。

だが、その手がある欄で止まる。


「…あれ?」


おかしい。

僕さっきもこの名前見たような…。

…っ!?まさかこんなことが…!?


「これ…早く伝えないと…!」


僕はそのままその紙を持って走り出した。



犯人は知人…だが朝霞はなぜ殺された?

人を殺すのには必ず理由がある。理由がなけりゃ愉快犯だ。

だけど今回の事件にそれはありえない。あんなに憎しみのこもった刺し方には理由があるはずだ。


俺は日に照らされた寮の廊下を歩きながら考える。


「なぜ犯人が奏にされた…恨みがあったのか?」


朝霞と奏の共通点はノーザンアースの出身ということだけだ…。

そして知人ということは犯人はノーザンアースの出身…?

確かに朝霞の周りには友もいた。だが部屋を訪ねるほど仲は深まってなかったように見える。


「もしもう1人、ノーザンアースから来たやつがいたとすれば…」


なんらかの恨みが2人にあり朝霞を殺し奏を犯人に仕立てあげた…。まあ、筋は通る。


俺は無意識に朝霞の部屋の2個部屋前…103

で立ち止まる。そして扉に目を向ける。

もしノーザンアース出身の奴がもう1人いたらこの部屋なのか…。

と、ドアノブを見てみると、そこには茶色い何かと深緑の髪の毛が付いている。


「…む…茶色と…深緑の髪の毛…」


確か深緑は…朝霞の髪の色。

待て。ということはこの茶色は…!!


「いや、単純に考えてもそうだ!」


「い、一夜っ…!」


八代が1枚の紙を持って走ってくる。

肩で息をしながらこれ、これ!と紙のある部分を指差す。


「これは…!よし!確信が持てた!奏!いるか!」


「奏っ」


俺達は2人で朝霞の部屋に乗り込む。

…しかしそこにはさっきと同じく倒れている朝霞がいて、奏の姿はどこにもなかった。


「む。どこに…」


「っ!一夜、こ、これ…」


八代が震えた手で床に落ちているそれを指差す。

__そこには嫌に真新しい血がついたハンマーが落ちていた。

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