第2話
俺達が向かったのは学生寮『明日香』。
一夜も八代もこの寮のようで、俺は2人に後で、と告げ入り口で朝霞を待つ。
数分待つと10人くらいの男子の塊が現れ、その中の1人が俺に手を振る。
目を凝らしてみるとその人は朝霞で、朝霞は友人達に手を振ると俺の方に走ってくる。
「やっぱり朝霞って友達作るの上手だね」
「そうかあ?話せばいい感じになるって!」
「そんなの朝霞だけだよ。ほら、行こう?」
俺は普通なんだけどなあ…とボヤく朝霞の背を押しながら寮に入る。
入ってすぐはエントランスで美しい装飾がそこを飾っている。
「きっれえ…!」
「だな…!テンション上がるぞ!」
「うん!…あ、ほら。部屋番号出てるよ」
俺は大きく貼り出された紙を指差す。
そこには大勢の人が集まっていてなかなか見えない。
朝霞が代わりに見てくれる。
「んーと?…俺が101。お前が102か…っつーことは隣だな!」
「あ、ほんと?もしかしたら北から時計回りで部屋を決めてたりしてる?」
「お!当たりっぽいぞー?さすがは奏だな!頭が良い!」
「そ、それほどでもないけどねっ」
俺は朝霞と笑い合いそれぞれの部屋に入っていく。どうやらノーザンアース出身は俺と朝霞だけみたいだ。部屋は電子キーで鍵がかけられており電子生徒手帳を当てれば開く仕様になっている。
部屋は机とベッドとタンスが置かれてあり、それとノーザンアースからの俺の荷物が届いていた。
その一つの荷物を開いてみるとそこにはたくさんリンゴが詰め込まれていた。
「え。えー!リンゴ!やったー!」
ノーザンアースはリンゴが特産品だ。俺も小さい頃からリンゴが好きでリンゴに囲まれて育ってきた。…っていうのは言いすぎたけどほんとに大好きで毎日5個は食べていた。
これはたぶんお母さんが送ってくれたのだろう。感謝しないと。
「そうだ!一夜と八代の部屋はどこなんだろ!」
俺は部屋を出てさっきの張り出されていた紙を見る。人はさっきよりかはまばらになっていて背を伸ばせばなんとか見える。
「えーと…八代は206で一夜が405、か…みんな遠いんだなあ」
「ふむ。奏は102か」
「あれ。一夜!」
突然聞こえた声に俺は振り返るとそこには一夜が本を持ってそこに立っていた。
その後には八代が少し眉を下げて立っていた。
「あれ。八代はどうしたの?」
「えっと…僕…喋るのが苦手で…」
「表情は豊かだ」
「ははっ。まあ一夜に比べればね」
俺はそう言って苦笑いすると八代も苦笑いする。
一夜はそれになにも言わず本を読んでいる。
「一夜って所構わず本読んじゃうタイプの人なんだね…あ!そうだ!2人ともリンゴは好き?」
俺の言葉に一夜は本から僅かに目を離し俺を見る。その目はらんらんと光っている。
八代も笑顔になる。
__2人とも、ほんとわかりやすいなあ。
「よし!夕飯にしようか!」
*
俺は食堂のおばあちゃんから「今日だけ特別メニューだよ!」と豪華な夕飯をもらい2人が待ってるテーブルに向かう。
近くのテーブルで朝霞もクラスの友達とご飯を食べている。
「お待たせ!」
「よし、食べるか」
一夜と八代が手を合わせる。
ご飯を食べる前に手を合わせ食事ができること、食材に感謝する…。
俺もお母さんからちゃんと手を合わせなさいって言われたっけ…。
「そういえばさっき言ってたリンゴは…」
「そうだったそうだった。ほら!」
俺は足元に置いていたリンゴが入ったカゴを持ち上げてテーブルの真ん中に置く。
八代が笑顔になる。
「俺、ノーザンアースの出身だからさ。家もリンゴ農家だったし」
「おぉ…俺、リンゴというものをこの目で見たのが初めてだ…!」
一夜がそう言ってリンゴを手に取りそれを食い入るように見る。
「そうなの?」
俺がそう言うと八代がうんうん、と頷く。
「えと…僕の出身のサウスアースはお菓子が…たくさんあるよ」
「ふむ。俺はここ出身だから特産品なるものはないな。少し羨ましいぞ」
「そうー?セントラルアースは大きいじゃん!いろんな物あるしさ」
八代がまたうんうん、と頷く。
一夜はうーむ…と唸りリンゴに齧りつく。途端、驚いたのか目を見開く。
「どうしたの?」
「なるほど…リンゴというのはこういう食感なのか…!奏!俺は感動しているぞ!」
「そりゃよかった!俺もたーべよ」
俺もそう言ってリンゴを手に取る。八代ももうリンゴを齧っており美味しそうに顔を綻ばせている。
と、隣から声がする。
「お。このリンゴ…お前んとこのリンゴか!」
「ん?あー朝霞。向こうで食べてたんじゃないの?」
「みんな食べ終わったから部屋に戻ろうかとな」
「へー。朝霞も食べる?まだまだあるんだ」
「お!よっしゃもーらい!」
朝霞はそうニカッと笑ってリンゴを手に取り歩き出す。
「立ち食いはマナー悪ぃし部屋で食べるわ。ありがとな奏」
「うん。また明日ね、朝霞」
俺はそう言って手を振る。朝霞もそれに振り返し部屋のある方へ歩いていく。
一夜が目をチラッと朝霞へ向け俺に聞く。
「あいつは?」
「俺の幼馴染の朝霞だよ。ノーザンアースからは俺と朝霞しか来てないんだ」
俺はそう言いながら朝霞の後ろ姿を見る。
__これが、生きてる朝霞を見る最後の瞬間だなんて、思いもしなかったんだ。
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