真実を見破れ

最善策

第1話

この5つの惑星…通称『五つ星』は元々1つの惑星だった。

その惑星の名前は『地球』。半世紀以上前にたった1つの核兵器によって5つの割れた。東西南北とその中央に別れた惑星はそれぞれ発展していった。

そしてついに100年前5つの惑星は宇宙シャトルで繋がれその長い時を過ごしてきた。


俺はその中の北の惑星。『ノーザンアース』の出身だ。

__そして今、俺の名前が呼ばれる。


「出身惑星、ノーザンアース。奏。前へ」


「はい!」


俺はスッと立ち上がり決められたルートを歩く。周りはさっきよりもざわめき、俺を見てひそひそと話をする。

どうやら俺のようなノーザンアース出身は少ないらしく、ここに来てからは驚かれるばかりだ。

確かにノーザンアースは引きこもり感はあったけど…。


俺が今いる惑星は中央の惑星、『セントラルアース』。そしてセントラルアースにあるセントラル学院。今は学院の入学式だ。この学院に所属している、卒業した、というだけで就職も有利になるし志願する人は多い。

だから毎年この学院の競争率は高く、お母さんには俺が合格したのは俺の強運と人柄の良さと言われ頬が緩んだ記憶がある。

まあそのお母さんもセントラル学院の卒業生だからそのおかげもあるだろう。


俺は階段を登りながらお母さんに感謝し、さっき紹介されていたこの学院の学院長の前に立つ。

学院長は綺麗な黒髪のセミロングで笑顔が素敵な先生だ。確か名前は…そうだ。真綾学院長。


「在学証明書。そして電子生徒手帳です」


学院長は俺に端末とハガキサイズの紙を差し出す。端末にはこの学院で過ごすために必要な情報と俺の個人情報が詰まっている。

手放さないようにしないと。


「これからも勉学に励んで、立派な大人になってくださいね」


「はい!」


俺はその二つを受け取り前の人たちがやっていたように数歩下がり頭を下げた__否、下げようとした。

俺の下げた1歩は思ったより大きかったのだろう。いや、それかさっき登ってきた階段が意外に近かったんだろう。引き下げた足は行く手を失いそのままバランスを崩す。

つまりは足を踏み間違えたのだ。


「わぁっ!?」


周りのどよめきと俺の叫び声が重なり、俺の背中には鈍い音と痛みが襲う。


「いたたた…」


俺は上体を起こしまだ痛みが残る背中をさする。そして自分が置かれている状況を考え直す。


…大勢の、しかもこれから4年間を共にする仲間の前で転んだ。


俺は顔が火照るのを感じながら急いで立ち上がり改めて学院長に深く礼をしてすぐに自分の席へ戻った。



「うぅ…」


「やったなお前!俺笑いこらえるのに必死だったぞ!」


項垂れる俺と対照的に大笑いするのは幼馴染みの朝霞。朝霞は五つ星では珍しい暗い緑髪をしていて気さくで友達も沢山いる。

いつも俺なんかと一緒にいるけどどうして…なんて考えるのは辞めておく。


「もう朝霞!俺だって恥ずかしいんだからね!」


「わりいわりいって!ほら、今度駅前のアイス奢るから」


「ここ、ノーザンアースじゃないけど!」


「あ。そうだった。まあまたなんか奢ってやる!」


「…約束だからね」


俺は少し考えてから口を尖らせそう言う。

しかし朝霞はそんな俺をじっと見ているまま。

ちょっと不安になって話しかけてしまう。


「な、なに?」


「うーむ…やっぱりチョロいな!」


「そういうこと言わないの!」


俺達はそんな会話をしながら沢山の人が歩く廊下を早足で歩く。

本当はゆっくり歩きたいところだけどそんなことしたら後ろの人に今にでも足を踏まれそうだから辞めておく。

そしてさっき配布されたクラス表を見る。


「えーと…俺のクラスは…A、だね」


「俺はCだ!いやあ、最初はお前と一緒の方が安心できたんだけどなあ…」


「それは俺も思うよ。さっきのもあったし変な奴って思われたらどうしよう…」


「大丈夫だ!元から変な奴だから!」


「ちょっとそれどういう意味!?」


はっはっはっはっ!と笑いながら朝霞は自分のクラスに入っていく。

朝霞のことだから教室に入った途端友達が10人くらいできているだろう。問題は俺だ。

さっきのことで変な奴と思われるのはいいけど悪い意味で一目置かれるのだけは勘弁だ。


俺は自分のクラスの前で小さく深呼吸をしてその扉を開ける。

そこには大体の人が揃って思い思いの席に座っていた。電子黒板を見てみるとそこには「席は自由」とデカデカと書かれている。大きいわりに字が綺麗だ。


そんなことを思いながら俺はキョロキョロと席を見る。教室は段になっていて奥の席に行くほど高い。そういう席にちょっと憧れてたのもあったから、俺はとりあえず1番上まで一気に登り席を見渡す。


「うーん…どこが空いてるかな」


一つの机に3人まで座れてそれが4×3で12個…。36人のクラスなんだね。

座ったけど実はここはもう他の人の席だったー、なんてこともあるから慎重に選ばないと。

などと考えていた時に、腕が不意に引っ張られる。


「わっ!?」


「ここだ」


「…ここ…って」


指さされた席は一番上の教壇から見て右の机。

窓がすぐ近くで気持ちよさそうだし電子黒板も見えやすい。


「こんな良い席いいの!?」


「いい。俺は本が読みたいだけだ」


そう言って俺の腕を引っ張ったその子は窓際の席に座りすぐに本を開く。

俺は満面の笑みをこぼしその隣に座る。


「えっと、俺の名前は」


「奏だろ。俺は一夜」


「やっぱり知ってるかあ…」


俺はそう言って机にぐだっと身を預ける。チラッと一夜が読んでいる本の表紙を見てみる。


「その本…あれだよね。今1番有名な本だよね」


「っ!」


俺の言葉に一夜の顔が一気に笑顔に変わる。


「知っているのか!」


「うん。俺も意外と本は読むほうでね。たぶん一夜ほどじゃないと思うけど」


俺は上体を起こし楽しそうな一夜を見る。

そっか。一夜は本が大好きなんだなあ…。


「楽しそうなとこ悪いけど、ほら。前見て前」


「む」


俺は教卓を指差す。そこにはさっきの学院長が凛と立っている。


「皆さん席について。そこの男の子も…えっと、八代くん?」


「は、はい…」


八代と呼ばれた男の子は慌てたように周りを見回す。俺は隣がまだ空いているのを確認してから八代を手招きする。


「あ、ありがとう…」


「ううん。俺は…ってさっき大コケしたからわかるかな。奏だよ。でこっちが…」


「一夜だ」


「え、えっと…僕は八代…よろしく…!」


「うん。よろしく!」


俺達は顔を見合わせる。

俺は満面の笑みで、一夜は真顔で、八代は顔を真っ赤にして。

…朝霞と離れたのは悲しいけど意外と楽しくなりそうだ…!


俺はそう思いながら前を向き直る。


「さて。皆さんお察しの通り、このクラスの担当教員をさせていただく真綾、と申します。気軽に真綾先生って呼んでね!さて。今日は私の紹介で終わりなので今日は解散!明日から8時半集合ですから遅れないように!じゃあ起立!」


学院長…真綾先生の言葉にみんなが元気よく立ち上がる。


「では、礼!さようなら!」

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