崩壊

疑惑

「おおっ。クラールさん、随分と威力の加減ができるようになったな」


目の前の真っ二つに割れた的を見て、サーロスが感嘆の声を上げた。

私もまた、しばしその的をぼんやりと眺める。


私が今まで学院で落ちこぼれのレッテルを張られていた要因……威力が強すぎるせいで学院の訓練場を破壊し尽くしかねず、結果、魔法が上手く発動できていなかったという状況をようやく打破できそうになってきていた。


私の威力が強過ぎる理由は、魔力の密度が酷く高いからだ。

これは自惚れでも何でもなく、純然たる事実としてそう。

サーロスに言わせると、密度が高過ぎて魔力の色が判別し難いほど透き通って無色透明なのだとか。


例えるのなら、普通魔法を発動させるのに密度十の魔力を十注げば一つの魔法が発動するところを、私の魔力の密度は百でそれを十注ぎ込むと、通常の魔法の十倍となるというような感覚なのだ。


あくまで例として数値化してみたが、本来魔力の密度も感覚的なものであり、それ故に私の魔力の密度が平均からどれほど離れているのか正確には分からない。


そのため私の魔力の密度では、どれほどの魔力量を込めると平均的な威力になるのか……手探りで探るしかなく、ずっと何度も何度もこうして訓練を重ねてきたというわけだ。


中級・初級と難易度が低くなるごとに本来必要な魔力量すら少なくなっていくので、それこそ魔力量のコントロールは非常に細かなそれを必要とさせられる。


今成功したのは初級魔法なので、随分とこの威力を抑えるというそれも感覚を掴めてきたようだ。


「サーロス君のおかげよ。ありがとう」


ここにきてそれができるようになったのは、勿論、訓練を積み重ねてきたからなのだが……けれどもそれだけではなく、やはり人に教えるという経験をしたことも大きかったのだと思う。


「いや、俺は何もしていないけど?」


「いいえ。貴方に魔法を教えるようになってから、より自身の理解も深まったの。だから、ありがとう」


「そこまで言われちゃ、俺も負けてらんないな」


私の言葉に苦笑いをしつつ、彼は自身の定めた的に向かった。


ザワリ、大きな魔力が動く感覚がする。

けれどもそれが収束する前に魔法が発動し、不完全なものとなってしまったそれはポンと軽い音と共に消えた。


……彼が練習しているのは、上級魔法。

本日何度目になるか分からない失敗に、肩を落としていた。


「焦らないで。もう少し、魔力動きをしっかりと感じてから放ってみて」


「分かった」


私の言葉に反応した後、彼は魔法を発動させるために再び集中する。

大きな魔力の流れる様が、特に集中せずとも感じられた。


……異常だ、と彼のその様を見ながら私は心の内で呟く。


彼の身体能力もさることながら、その魔力量の異常さについつい舌を巻いた。

彼が練習しているのは、上級魔法。

しかも、今日だけで何度目になるか分からないチャレンジ……つまり、彼は今日だけでもそれだけの魔力を消費しているのだ。


普通、魔力量の器の大きさは貴族と平民で異なる。生まれた時点で両者の違いは決定的で、それをベースにしているが故に、どれだけ努力しようとも成長後もその差は縮まることはない。

具体的に言うと、平民の才ある者で中級魔法が精一杯、多くの者は初級魔法止まりだ。魔法が全く発動できないような最低限の魔力しかない者もいる。

対して貴族は基本中級魔法までは使えて当然、才ある者が上級魔法を使えるものだ。

この魔力量の差が、貴族が選民意識を持ちかつ権力が集中している要因だろうと私は踏んでいる。


これは余談だが、聖女が貴族の令嬢より選出されるのも、魔力の器の大きさが理由ということで結論づけてしまえば簡単……というより実際、貴族の面々はそれ故に自分たちは選ばれた存在であり、女神ライア様より世界を管理する任を与えられているという主張し続けている。

私が疑問に思うのは、そもそもで『生きとし生けるモノは皆等しく愛すべき世界の一部』と女神ライア様は仰られたという聖典があるというのに、何故貴族のみが魔力量が大きくかつ聖女に選出されるのか……ということだ。


閑話休題。


いずれにせよ、サーロスの魔力量は異常だ。

果たして、彼は一体何者なのだろうか……。


私がそんな風に考えているなどと露知らず、いつのまにかサーロスは再び上級魔法を構築していた。



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