疑問
「……貴方は、何故そんなに口調を変えているのかしら?」
魔法の訓練を終え、少し離れたところで狩りを行なっているルーノを待っている間に、ふと気になったことを質問してみた。
彼は私の質問に、困ったような笑みを浮かべている。
「……自分で言うのも難だけど、俺はちょっとした有名人だろ?」
「まあ、そうね」
ロンデル様にその素質を見初められ弟子入りし、自らも着々とその力を示し続けていた彼は学院に入学する前から有名だったようだし……とは、かつての入学式を思い出しての感想だ。
「だから、穏やかで優等生な仮面を被っていた方が、割りかしトラブルが少なくて良いんだ。やっかむ奴らは沢山いるし、ただでさえ平民だから風当たりはキツイし」
「貴方なりの処世術、といったところかしら」
「まあ、そんな感じ。……尤も、いつもの口調も慣れ過ぎて、あれも素と言えば素なのかなとは思うけど」
「なるほどね……」
「クラールさんの方こそ、何故他人を頑なに拒む?」
「どうして?」
「……クラールさんも、普段口調を変えているだろう?その理由は、他人を拒んでいるならなのかと普段の様子を見て当たりをつけたんだけど」
彼の言葉に、ついつい笑った。
「……あの口調は、別に他者を拒んでいるからという訳ではないのよ。むしろ貴方同様、今までの自分を取り巻く環境によって作り上げられたのは、あっちの口調なのよ」
「へえ……」
「けれども、他者を拒んでいるという点は否定できないわ」
そう言えば、サーロスは何とも言えない表情を浮かべていた。
……仕方がないことじゃないか、と私は心の中で誰に言うでもなく言い訳じみた考えを浮かべる。
だって、私はかつて……実の父と婚約者に死へと追いやられたのだ。
血の繋がりがあろうとも他者を簡単に蹴落とす様を見て、一体他人の何を信じることができるのか……と。
私にとって他者とは、敵でしかないのだ。
例外はボナパルト様とテレイアさん、それから子ども達。
彼らだとて、いつ、私を裏切る存在になるのか分からない……と、完全に信じることができている訳ではない。
けれども裏切られたところで惜しくないとも思っているのだ。
……それだけ、彼らの存在を愛おしく思っているから。
かつての私は誰からも愛されず、愛を求めてばかりでそれに苦しむばかりだった。
今世では、愛を得ることを始めから諦めるつもりだった。
そんな私に、彼らは愛は一方的に求めるものではなく、自身が分け与えてこそということを……愛するということを教えてくれたのだ。
彼らのおかげで、私の視界は色づいた。
そんな彼らの存在に、私は心の底から感謝している。
だからこそ、あのプレアグリアの時に自身の命を賭けることすらできたのだ。
……生きて、生きて、生き残ることだけが目標だったはずの私には到底取るはずのない選択肢だったとは、後で冷静に考えた時に思ったことだった。
それはともかくとして、私は彼らを愛している。だから、彼らのためならば命を賭けることは惜しまない。例え彼らが後々裏切り、その結果私が再び死地に追いやられたとしても……それでも、彼らと共に過ごしてきた時が愛おしい。
そこまで彼らへの想いが重いからこそ、彼らを他者だからと弾くことはないのだろう。
そこまで私の心中をサーロスに話すことはなく、無言で自分の考えをまとめていた。
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