共同

それから、私はサーロスと共に訓練をするようになった。

特に約束した訳でもなく、いつの間にか自然とそうなっていたのだ。


最初は魔の森の中で鉢合わせた時に、魔獣を共に討伐するようになっただけだった。

けれども、互いの戦いにそれぞれ助言を与え合い、その内に互いに教え合うようなそんな訓練をするようになっていたのだ。


最近では、魔獣を相手にしているよりもサーロス相手に剣を振るう時間の方が増えている。

魔法に比べてどうしても近接戦が苦手な私は専ら教えてもらう方だが。


「……流石、ロンデル様の弟子ね」


サーロスが持ち込んだ訓練用の剣を下ろすようにして構えを解きつつ、そう呟いた。


「クラールさんの方こそ。魔法専門かと思ったけれども、なかなか近接戦も強い」


そう言われつつも、私の訓練用の模擬剣は彼に弾かれた。


「師匠の教えよ。魔法主体の戦い方であろうともいざという時のために近接戦を磨けって。とはいえ、こんなに簡単に負け続けているようじゃまだまだね」


この頃では彼相手に取り繕っても仕方ないと、口調を改めているほどには彼と濃い時間を過ごしているように思う。

彼もまた、私に対してはそれまでの余所行きの口調を改めていた。


「いやいや……正直いつも冷やっとさせられる。得意の近接戦で負ける訳にはいかないからと、随分気を張ってこれだから。……君の師匠は、とても凄い人だったんだな」


サーロスも構えを解きつつ、言葉を発した。


「俺の師匠に教わった騎士団の剣筋とは違う……一見我流のようで、けれども長年の経験に基づいたようなそれに驚いたけれども、君の師匠が作り上げたものだったのか。俺も勉強になるよ」


「そう……」


私は彼の言葉にバルトロメイ様を思い出して、つい口角が上がった。

やっぱり、師匠を褒められると自分のことのように嬉しいものなのだ。


「……さて、と。近接戦の訓練はここまでにして、そろそろ魔法の練習に移っても良いか?」


喜びに浸っているところで、サーロスから提案された。


「ええ。付き合ってくれてありがとう」


「俺も良い訓練になってるから、礼は良いよ」


「あら、そうはいかないわ。代わりに、魔法の訓練は任せてね」


「あー……うん」


苦笑いを浮かべる彼に、私は内心首を傾げる。


「どうかしたの?」


「いや……その、教えてくれるのは本当にありがたいのだけど……」


彼らしくないハッキリとしないその態度に、私は更に首を傾げた。


「今回こそ具体的な説明で、頼むよ」


「うっ……」


彼の願いに、思わず私の方が言葉に詰まった。

感覚に頼る私は、どうやら説明が苦手らしい。

ついつい、『パーっとしてシュンとする感じ』だとか『もっとギュッとして』だとか擬音語のオンパレードになるのだ。

その度に、『パーっとする?』『シュンとする?』とえらく彼を混乱させてしまう。


魔法を使った『戦い方』だとか、活用の話になると一応ちゃんとできるのだけど。

……どうしても新たな魔法の習得だとか、魔力や魔法の質を上げるための訓練となると、十回の内九回ぐらいは、擬音語に頼ってしまう。

人に教えるのはつくづく大変なことなのだなあ、と実感するこの頃であった。

……教えることを申し出ておいて、何とも情けない話だが。


「今回は大丈夫な気がするわ!」


私の回答に、サーロスは突然吹き出して笑い始めた。


「……笑い過ぎじゃない?」


ジロリと睨めば、けれども彼は笑みを浮かべたままだ。


「いや、悪かった。是非とも、よろしく頼むよ」


「まあ、良いわ。じゃあ、始めましょう」


そうして私たちは、魔法の訓練を始めたのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る