連日

「……また、ですか……」


思わず魔の森の前で彼の姿を見て、呟いた。

その呟きに彼が反応して、魔の森に入ろうとしていた彼が振り返る。

……呟かなきゃ良かったと思ったのは、後の祭りか。


「クラールさん。君も訓練に?」


「ええ……サーロス君も?」


「そうだよ。まさか君も連日来るとは思わなかった。昨日Aランクの魔獣ど戦ってたけど、それで今日も訓練って大丈夫?」


「ご心配には及びません。寝て魔力は回復しましたし、負傷もなかったですし」


「そっか。じゃあ僕はこっちから入るから、またね」


「ええ」


思ったよりもアッサリと別れを告げると、彼は魔の森の中に入って行った。


「さあ、ルーノ。私たちも入るわよ」


隣に佇むルーノに声をかければ、待っていましたと言わんばかりに嬉しそうに吠える。


その反応に私は笑みを浮かべると、彼が入ったところとは別方向へと魔の森を進んで行った。


遭遇した魔獣を討伐しては、進む。

ルーノも楽しそうに暴れていた。


……よくよく考えてみれば、この魔の森も不思議なものだ。

ふと、そんなことを考える。

魔の森は、どれだけ木々を燃やそうとも地形を変えようとも時間が経てば何事もなかったかのように元どおりになるのだ。


私がプレアグレアの時に戦った場所がどこか、もう分からないほどに。

あの時、随分見晴らしが良くなったというのに。


私の生まれ育った領地……ロルワーヌ伯爵領にもこの森と似たような地があった。

私の師匠であるボナパルト様と出会った場所。

調べてみると魔の森は、この国のいたるところにあるらしい。


つまりどこで住もうとも、魔の森からは……いや、魔獣からは逃げることはできないということだ。

おかげで私の生活が成り立っているから何とも言えないけれども。


けれどもそれでも、時折ふと考える。

果たして、この魔の森というのは一体どういう原理なのだろうか……と。


なんて、答えのないこの問いを考えても仕方のないことだけれども。


「ルーノ」


擬態を解いたルーノが、楽しそうにはしゃいでいる。

やはり、故郷のロルワーヌ伯爵領の森を思い出しているのだろうか。


ルーノは名を呼ばれると、私の方を振り返る。


「そろそろ帰りましょう。明日は授業が再開されるから、流石に……ね」


「ワフッ」


そう言うと、肯定したように吠えた。

本当に、賢い子……。

私は彼の頭を撫でると、彼は気持ちよさそうに目を細めた。


そうして私たちは魔の森を出るべく、来た道を戻る。


……今日は何も起こらなかったな。


そんなことを考えつつ魔の森の中を探知すれば、強い魔力を感じる。

まだ、サーロスは戦っているのか。


『強くなりたい』


そう呟いた彼の願いは、どうやら本気でそう願っているということか。

……私も、負けてはいられない。

そう思いつつ、私は魔の森を後にした。



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