再開
連日サーロスに会ったその翌日、授業が再開された。
実技のクラスに行けば、けれどもまだ人数の少なさが目立つ。
プレアグレアで重傷者はいなかったから、心の問題なのだろう。
端から訓練場を眺めつつそんなことを考えたら、ちょうど訓練場に入ってきたルクセとダルメに会った。
彼らもまた私の存在に気がついてギョッと目を見開く。
実地訓練で数日を共にした彼らのそんな表情を見たことがなかったので、ついおかしくなって笑った。
前まではそんなことをしたらすぐにでも突っかかって来たというのに、そんなこともなく、ただただ呆然と私を見ていたのった。
「……集まったようだな。それでは、本日の訓練を始める」
訓練自体は淡々と進んでいく。
誰もが、教師に言われたことをただただ実践していた。
いつもよりも精彩さというか、盛り上がりに欠けているのは気のせいではないだろう。
……まあ、どうでも良いことか。
私は、いつものように魔法を放つ。
何とか的に着弾はしたが、やはり威力の調整は苦手だ。
前よりも上手くいくようになったけれども。
「……おい、落ちこぼれ。お前、あのスタンピートの時に逃げ遅れたんだろう?よく、生き残ったな」
顔も知らない生徒から、そう声をかけられた。
「お前で生き残れるんだから、俺らだったら余裕でスタンピートを終息させることができただろうに。なあ?皆」
漂う微妙な空気を吹き飛ばすように、彼が周りに向けて声をかける。
彼の言葉に一瞬、ドッと辺りが騒がしくなった。
私はそんな彼を無視して、的に向かう順番待ちの列に並び直す。
「……おい、無視するな」
「……そう思うのならば、あの場に残って戦えば良かったじゃないですか」
囮がいたら随分と楽だったかも知れない……と一瞬思ったけれども、けれどもすぐにそんなことを考えた自分を嗤った。
彼らが、囮になり得たか?
答えは、否だ。
むしろ騒ぐだけ騒いで、邪魔をされたことだろう。
ルクセやダルメを思い浮かべればすぐに分かることじゃないか。
「何を馬鹿なことを言っているんだ?尊い血が流れる俺に、そのような危険な場所に行けと?」
「……そうお考えなのであれば、仮定の話など無駄なのでは?そもそもで、あの時あの場にいなかった貴方がたには何も言う資格はないと思いますよ」
私が口を開きかけた瞬間、別の方から聞こえてきた声。
それは、サーロスの声だった。
「……何だと?」
ピクリと、それまで大きな口をきいていた貴族のお坊ちゃんが反応を示す。
けれどもサーロスは和かな笑みを浮かべていた。
否……確かに口元は笑みを浮かべているものの、よくよく見ればその目は全く笑っていなかった。
凍えるようなそんな冷たい視線に、むしろ私の方が驚いた。
まさか、サーロスがそんな瞳をするなんて……と。
相対する貴族の坊ちゃんも驚いたようで、サーロスの迫力にたじたじになっていた。
「……あの日あの時のことで彼女のことを誰も嗤うことはできやしない。この場にいる誰もが、あの時何の役にも立たなかったのだから」
自嘲しつつ、サーロスは言葉を続ける。それは、特定の誰かに対するというよりかは誰に対しても平等に言っているかのようだった。
そして剣呑な雰囲気を漂わせる彼に、それ以上誰も何も言えなかった。
シン……と静まり返り、再び重苦しい雰囲気が漂ったままその日の授業は終わった。
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