加虐
その日、授業が終わるとすぐさまルーノと共に森に向かった。
最近は体術を鍛えるために近接戦のみというある種の縛りをしていたけれども、今日は違う。
「……今日は、思いっきりぶっ放す!」
前方方向から感じた魔獣の群れの気配に、私は叫んだ。
すぐさま魔力を操作し、呪文を唱え始める。
「魔の炎よ、全てを焼き尽くし、全てを灰燼と化せ。我は所望する、魔の炎を。『炎炎輝羅』」
詠唱して発動した中級魔法によって、目の前に火柱が現れた。
そして、こちらに向かってくる十体ほどの魔獣を焼き尽くす。
「……ちっ」
同時に別方向からくる魔獣の気配に、思わず舌打ちをした。
「『雷刃』」
そしてそちらに向かって、更に魔法を放つ。
後続の魔獣のうち、何体かはその牽制のために放った雷刃で絶命した。
「『水球』『雷球』」
次いで、初級の魔法を多重に発動させて魔獣に放つ。
水球が当たった魔獣は勿論、当たらなかったそれも地が濡れたことによってそこから雷が伝達されて痺れて動きを止めた。
「『風刃』」
風刃によって、残った魔獣も生き絶えた。
「……クゥーン」
戦闘が終わると、ルーノが不満げに鳴く。
「ゴメンね。ルーノの分、残さなくて」
そう言って頭を撫でれば、ルーノは仕方がないなあとでも言うかのように鼻を鳴らした。
「もう少し、奥まで行ってみましょうか」
私もまだ、消化不良だ。
……昨日今日の苛々を解消するには。
サーロスの存在と、そして彼の発言にビクつく自分に苛々することもさることながら、今日のあの女子生徒たちの発言にも、男子生徒たちのあの行動にも……つまりは全てにイラついていた。
その苛々を解消すべく、それならば思いっきり何も考えずに魔法を放ちたいと、魔獣討伐に来たというわけだ。
自分で言うのもなんだけど、随分とまあ戦闘狂のような思考になったものだ。
「……にしても、やっぱり魔獣が増えているわねえ」
それから二度、魔獣の群れに遭遇し討伐を終えたところで呟く。
幸いにも魔力量には余裕があるし、何より相対する魔獣の討伐難易度が低いというのが救いか。
ルーノの方を見れば、戦闘に参加したおかげか随分と機嫌が直っていた。
「そろそろ戻りましょうか、ルーノ」
私の提案に、ルーノは素直に頷く。
ふと、その場から離れる前に辺りの景色を見る。
遠慮なく魔法を放ったせいで、辺りは広範囲に渡って焼け焦げていたり、無残にも木々が切り倒されていた。
……随分と、見晴らしが良くなったものだ。
けれどもこの光景は、長くは続かない。
時間を置けば、この森は元どおりになるからだ。
魔獣が多く出現する森は、破壊をされても時を置けば元の姿に戻る。
何故なのか、それは解明されていない。
幾つかの仮説がある中で、最も有力視されているのは、森自体が魔獣と同じく魔の気配によって変異しているという説だ。
そしてこの森は、徐々にその範囲を広げていっているらしい。
「……さ、帰りましょう」
何はともあれ、今日は疲れた。
苛々が静まって、少しばかりスッキリとした私は、軽い足取りで森を出て寮に向かって行った。
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