実地
学校に通う、訓練を行う……そして時々テレイアさんの家に行く。
それが、私の日課だ。むしろ、それ以外することはない。
……何が言いたいかというと、私は学院で誰とも親しくなっていないということだ。
学院に通うようになって早、半年。
たいていの生徒は特定の生徒と意気投合して、行動を共にしている。
そんな訳で授業が始まる前に訓練場に行っても話し相手などいなくて、こうして壁に寄りかかるしかない。
まあ……仕方ないし、別に良い。
早く、強くなりたいのだ。
こうしている間にも、私の運命は巡っている。破滅への足音が、近づいている。
何より、あの子たちに危険が差し迫ったそのときに、力が足りずに守ることができなかったなどとなれば……後悔してもしきれない。
ボナパルト様にも顔向けができなくなる。
だから私は時を惜しんで強くなることにしか、目を向けることができない。
他を見ている余裕など、私にはないのだ。
それに、他の子たちも私とお近づきになりたいと思うことはないだろうし。
自分でも言うのも難だけど、かなり話しかけにくい雰囲気を常に纏っているだろう。
何せ私は、ヒトをそう簡単に信用することができない。むしろ、警戒すら常にしている。
それは、ボナパルト様やテレイアさんそれからあの子たちを除いて全て……だ。
それ故に、話しかけられても反応に困ってしまう。
後、私はすっかり学院の中でも落ちこぼれ扱いだ。学科だけが得意で、けれども他はてんでダメな生徒。それが、皆の私に対する評価。
結構初っ端の授業で、火球ができなかった一件以来、その評価は不動なものになっていた。
そんな落ちこぼれな生徒でかつ話しかけるなという雰囲気を出している面倒な生徒に、わざわざ話しかけるような物好きなどいないだろう。
そんなことをつらつらと考えていたら、やっと教師が来て授業が始まった。
教師が見せてくれた例の通り、魔法を放つ。
……少しずつ威力を制御することができるようになったけれども、やっぱり、まだまだだ。
「……やだあ」
「本当、才能ないよな」
「やる気、あるのかよ?」
私が魔法を放つ度、クスクス笑い声と共にそんな声がチラホラ聞こえてくる。
結局、落ちこぼれ扱いのまま……むしろその印象をより強くして、その日の授業も終わった。
授業が終わると、その足で平原奥の森に入って魔獣を狩る。
「……ルーノ!」
多すぎる魔獣を前に、ルーノは敵の攻撃に当たってしまった。
私の声に、けれどもルーノは大丈夫だと言わん限りに首を振ると、再び魔獣の群れに突っ込んだ。
……やっぱり、 魔獣の数が増えている。
組合のおじさんに言われた言葉通りに。
それほど、聖女の力が弱まっているということ……か。
魔法で精製した刀を振り下ろしつつ、口は魔法を発動するためのキィ・ワードを呟く。
魔法が発動すると同時に、その場を離れた。
ゴウ……と私の前方に火柱がいくつもあがる。
威力を制御する訓練をしていたおかげで、イメージ通りの範囲での発動。ルーノを巻き込まずに済んだ。
荒い息を整えつつ、周りの様子を伺う。
ルーノの方を見れば、ちょうどルーノも敵を掃討していた。
終わった……か。
それにしても、本当に魔獣の数が増えている。
私の体術が未熟というのもあるかもしれないけれども、それだけでは捌き切れないほどに。
……一体これから先、更に増えたらどうなるのだろうか。
そんな一抹の不安を抱えつつ、私はその場を後にした。
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