心配
気を取り直して、テレイアさんの家に向かった。
テレイアさんの家は街からそう遠く離れていない、住宅街の一角にある。
「テレイアさん、こんにちわ」
「あー!姉ちゃんだ!」
テレイアさんの家に訪れると、子どもたちが走り寄って来る。
その笑顔や仕草に、私の口角は勝手に上がっていた。
「皆、久しぶりですね。良い子にしていましたか?」
「聞いてよ。ハノイったらね、鬼ごっこしていて街の方まで行って迷子になったんだよ!」
ダージュの言葉に、ドクリと体内に嫌な鼓動が響いた。
「あ!ダージュ!その話は姉ちゃんには秘密だって言っただろう!?」
思い浮かぶのは、先ほどの親子の姿。
それが鮮明に現れて、子どもたちの言葉が耳に入って来ない。
「クラールお姉ちゃんから言ってもらわないと、テレイアさんは優しいからハノイのこと怒らないもんね。ダージュが正しい」
「ルルまで!」
「……ハノイ。何もなかったですか?無事ですか?」
フラフラと、ハノイの方に近づく。
ハノイはそんな私の反応に、首を傾げていた。
「変な姉ちゃん。街に行ったぐらいで、大袈裟だよ」
そう笑い飛ばすハノイを、私は抱きしめた。
「……良かった、無事で」
抱きしめる手に、力が篭る。
本当に、良かった。
あの子どものようなことに、ならなくて。
彼が今、ここに無事でいてくれて。
私の様子がおかしいことに気がついたのだろう……ハノイは、心配げに私の顔を見上げた。
「姉ちゃん、どうかしたか?大丈夫か?」
「……。あまり、心配をかけないでください。ハノイがやんちゃ過ぎると、私は心配し過ぎて心臓が止まってしまうもしれません」
それは、本音だった。
この子たちがさっきのような面倒ごとに巻き込まれると想像しただけで、全身が凍えたと感じるほどに血の気がなくなる。
恐ろしくて、恐ろしくて仕方がない。
「……ごめん、姉ちゃん」
「気をつけてくださいね、ハノイ」
他の子たちも、心配げに私を見ていた。
「さ、皆。今日はお土産を持ってきましたよ。皆で食べてくださいね」
そう言って皆に買ってきた菓子を配る。
さっきまでのしんみりした空気はどこかに飛んでいて、皆一様にはしゃいでいた。
その様子を、私は再び笑みを浮かべて見ていた。
「ハノイはお姉ちゃんに心配をかけたから食べちゃダメだよ」
「はー?メラ、お前に言われることじゃねえし」
子どもたちのじゃれ合いも、微笑ましく感じる。
……とはいえ、流石に喧嘩はダメか。
「メラ、今日は皆で食べるために買ってきたんですよ?ちゃんと、ハノイにそれを返しなさい」
メラは、渋々とお菓子を返す。
それに対し、ハノイは舌を突き出しておちょくっていた。
「メラ、貴女がハノイに意地悪しようとしていたんじゃないことぐらい、分かっていますよ」
この家のモットーは、応報。
良いことをしたらご褒美を貰えるし、悪いことをしたら当然罰が下る。
メラなりに、それを当てはめてした行動なのだろう。
普段は、他の人のお菓子を取るような真似はしないしね。
「ハノイ。もし、次に他の人を心配させるような真似をしたら、お土産はなしですからね」
「はあい」
しょんぼりしたハノイの頭を撫でて立ち上がった。
「お姉ちゃん、ご本を読んでー」
「私とおままごとしよう?」
「本もおままごとも後でできるじゃないか!せっかく天気が良いんだから、外で鬼ごっこしようよ!この前約束してたろ!」
立ち上がった私を子どもたちが左右から囲んで、それぞれがしたい遊びを発現する。
ワイワイと騒がしくなる中、それぞれの要望を聞き分けるのは、結構難しい。
今でこそ慣れたけど、最初は結構混乱したっけ。
「そうね。ダブリンの言う通り、この前約束しましたから、今日は外で遊びましょう。ルル、本は夕方読んであげるからね。カリン、おままごとは次来たときに必ずしますから。今日は許してくださいね」
それぞれに、言葉を返す。
「ダブリン。私先にテレイアさんに用事があるので、戻って来たらゲームをしましょうね。皆もぜひ、参加してください」
子どもたちから一旦離れて、テレイアさんに近づいた。
「ご挨拶が遅くなって、申し訳ありません。テレイアさん、お久しぶりです」
「あの子たちがはしゃいでるから、仕方ないね。なにせ皆、首を長くして待ってたもの」
テレイアさんは目を細めて柔らかい笑みを浮かべる。
ふと、その笑みを見ていて、『お母さん』ってこんな感じだったのかな……と、疾うの昔に捨て去ったはずの憧憬が心に沸いた。
「向こうじゃ毎日ぐらい会ってたからね。子どもたちの気持ちも分かるのだけど……貴女も忙しいでしょうしね。無理だけはしないように」
「ありがとうございます」
胸に沸いた感情を棚上げして、空間魔法から市場で買ったものを出して差し出す。
「これ、少ないですが……どうぞ」
「まあ、クラール。こんなにたくさん……!一体どうしたの?」
「魔獣を討伐した報奨金をいただきまして。寮に入っているので近々に使うことはないですし、皆の役に立てたらなって」
「ありがとう、クラール。それじゃあこれで、あの子たちに何か美味しいモノを作らないとね」
「よろしくお願いします」
その後子ども達と遊んでいたら、時間があっという間に過ぎた。
結果、テレイアさんの食事のご相伴にあずかって、それから寮に帰ることになった。
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