昔話
「テレイア様は、師匠のどういう知り合いなのですか?」
台所で調理の手伝いを行いつつ、テレイア様に問いかけた。
ボナパルト様が姿を消してから、一週間。
未だ、ボナパルト様は帰って来ていない。
「テレイア様だなんて、止してちょうだい。そんなに敬われてしまうと、気恥ずかしいわ」
「……なら、テレイアさんはどうですか?」
「まあ、それなら。それで、何でしたっけ……ああ、ボナパルトと知り合った経緯ね。私とボナパルトとは、王立魔法学院に在籍していた頃からの知り合いなのよ」
「テレイアさんも、学院の卒業生なんですか!?」
「そうよう。やっぱり、お金を稼ぐのには魔法学院に行くのが手っ取り早いからね」
そう言って、テレイアさんは苦笑いを浮かべた。
「私はね、ここにいる皆のように親を早くに亡くしてしまったの。それで、教会に保護されていたのだけれども……やっぱり、財政難でね」
「ですが、教会には貴族からの多くの寄進があるはずですが……」
「残念ながら、そういったお金は貴族専用の豪華な教会の方に当てられてしまうものなのよ。だから、王都の下町にある教会はボロボロでね。保護された子どもたちも、その日暮らしっていうのが実情なの」
……知らなかった。
だって、そんなこと……学んでこなかったのだから。
いいえ、違う。
学んでこなかったのではない。
ただ、私が目を背けたいたのだろう。
見たいものだけを追い求め、それ以外は全て放っていたのだ。
「そんな中でも、私の面倒を見てくださったシスターはとても熱心な方で。私は、シスターの手助けをしたいと思うようになったの。まずはお金を稼いでシスターに楽をさせてあけまればな……てね。運良く魔法の才に恵まれていたから、魔法学院に入学できて、そこでボナパルトとは知り合ったの」
「なるほど……。でも、良いのですか?こちらに滞在している間、その教会のことは……?」
そう問いかければ、テレイアさんは悲しそうな笑みを浮かべるばかりだった。
それ以上は聞かなくて、私もまた口を噤む。
「まあ、それはともかく。……あの頃から、ボナパルトの破天荒さは群を抜いていたわね。平民ながら貴族に萎縮することなく、言いたいことは言い放題。見ているこちらの方がハラハラさせられたわ」
ボナパルト様の武勇伝に、つい、吹き出してしまった。
「ボナパルトの実力は抜きん出ていてね。出る杭は打たれるどころか、どんどん独りで才を伸ばしていったのよね」
懐かしむように、テレイアさんは眼を細める。
「……テレイアさん」
「なあに?」
「もう少し、私の知らない師匠の話を聞かせて貰っても良いでしょうか?」
「勿論、良いわよ。ただし、私が言ったということは内緒ね。彼、意外と恥ずかしがり屋だから」
そう言って、テレイアさんは悪戯っ子のような笑みを浮かべつつウィンクをした。
「分かっています」
「それは安心だわ。……続きは、子どもたちの食事が終わったからにしましょう。皆ー!ご飯ですよー!」
テレイアさんの呼びかけに、皆がワッと近づいてくる。
初めはテレイアさんに対して人見知りをしていた子も、随分彼女に慣れてきたようだ。
子どもたちは、それぞれの席に着く。
そして、食前の祈りを捧げた後食事を取り始めた。
皆テレイアさんの食事に虜になっているらしく、子どもたちはガツガツと美味しそうに頬張っている。
「こら、ハノイ。それはマルルのお皿でしょう。獲っちゃダメですよ」
「はーい」
注意をすると、ションボリとハノイは項垂れた。
それでも、食事な手を止めることはなかったけれども。
「大丈夫よ、ハノイ。お代わりは、たくさんあるからね」
テレイアさんがそう告げると、目がキラキラ輝いてまた食事をガツガツと食べ始めていた。
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