足音

それから、数日後。

私はまだ、学院の入学を決めかねていた。

なるべく早くに家を出たいのなら、学院の入学も早くにした方が良いというのも分かってはいるのだけれども……。


「はあ……」


目の前の光景を見つめる。

そこには、数匹の魔獣が絶命し横たわっていた。

……現実逃避がてら、魔獣の盗伐を行なっているのだ。

最近、森の魔獣の数が増えている気がする。

考えなければならないことを放り出して、ただただ戦闘に没頭できるため、今の私には丁度良いのだけれども。


「師匠を呼ばないと……」


私では、この魔獣たちは換金することはできない。

その、資格がないからだ。

ボナパルト様の手を煩わせないためにも、やっぱりさっさと学院に行った方が良いか……。

頭の中のモヤモヤを振り切るように、学院に行った方が良い理由をツラツラ思い浮かべる。

そうしながら、ボナパルト様の家に向かった。


「お姉ちゃーん!」


私が姿を現して、子どもたちが駆け寄って来た。


「あら、師匠は?」


「お爺ちゃん?何か用があるって、朝から出かけてたよ」


「そう……」


用事とは何だろうか……という疑問と共に、何故だか先ほど押し込めた不安が胸の中で燻る。


ふと、師匠や子どもたちとは別の気配を家の中で感じた。

警戒しつつ、その気配がする方……台所の方へと足を運ぶ。


「……あなた、どなたですか?」


そこにいたのは、師匠と同じぐらいの年齢の女性だった。

女神ライアを奉る、この国唯一の宗教であるラグール教のシスターの服を身に纏った彼女は、私の問いかけに笑みを浮かべる。


「私の名前は、テレイア。ボナパルトの知り合いです。暫く留守にするから、ここを任せると言って……ホラ」


そう言うなり、テレイアは懐から手紙を出した。

そこには、確かにボナパルト様のサインと魔力残滓が残っている。

魔力は保有者によってその気配が異なり、魔法を扱う者同士であれば魔力による印を押すことがこの上ない本人が書いたという証になるのだ。

というわけで、テレイアがボナパルト様と知り合いだということも、ここを頼まれているということもまず間違いないだろう。


「あなたが、クラールちゃん?話はボナパルトから聞いているわ」


「そうですか……。師匠が一体どこに行ったか聞いていますか?」


「いいえ、生憎。ただ、ここの留守を頼むという書面が送られてきただけですからね。全く……ボナパルトは、いつもそうなんだから。人の気も知らないで」


最後の方、ボソリと呟いた言葉は笑顔なのに少しだけ寒気を感じた。


「……そんなに心配しなくても大丈夫よ。ボナパルトが腰を据えて滞在するなんて、子どもの頃を除いたら人生で二回しかなかったのだもの。必ず、帰って来るわ」


テレイアさんは励ますように言ってくれたけれども、私の気持ちは晴れない。

嫌な予感がして、仕方がない。


……一体、師匠はどこに行ったのだろうか。


答えのない問いかけに、私はずっとやきもきしていた。

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