成長
成長
目の前に、魔獣が迫り来ていた。
かつて、私が苦戦した熊の魔獣。
「……雷光刃」
それに対し、私は魔法を発動させる。
無数の雷の刃が私の頭上に顕現した。
それを一気に、魔獣に向けて放つ。
魔獣は、為すすべもなく息絶えた。
「……ふう」
ボナパルト様に出会って一年が、経過した。
ボナパルト様に訓練いただくようになってから、私の魔法戦闘能力は格段に引き上げられた。
そのための訓練は、過酷を極めたが。
……けれども、その過酷さを楽しんでいたのも事実だ。
何せコレは、私が望んで学んでいるのだ。
かつて与えられるもの、責務だけで学んでいたものとは訳が違う。
自分でやると決めたからこそ、それがモノとなった時に感じる嬉しさはより大きなものだったし、辛い時にも励みになっていた。
それはともかく、私の魔法を 戦闘能力が上がった証拠が、今の戦闘だろう。
最早Bランクですら、今の私にはさしたる障害にはならないのだ。
……未だにボナパルト様には勝てないけれども。
「……おー。随分な収穫じゃねえか」
「師匠」
……全く、気がつかなかった。
師匠が近づいていたことに。
「あれほど申しましたが、気配を絶って近づかないでください。心臓に悪いです」
「悪りぃなあ。こりゃ、習慣だ」
ボナパルト様はカラカラと笑って、そう言った。
「まあ……真面目な話、俺が気配を絶っても、気づくようになれ。ある程度の実力者と戦うなら、気配探知は磨いとなきゃならん」
「……畏まりました」
そのタイミングで、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
……まずい。
随分と、時間を喰ってしまった。
「……申し訳ありません。私、所用がございまして、戻らなければなりません」
「おー良いぞ。これは、換金しておく」
「ありがとうございます。半分は、あの子たちへの食費として使ってください」
私の修行を見るために、通常は各地を転々とするボナパルト様は一年の間ずっとこの地にいた。
その間に、ボナパルト様は何を思ったのか、魔獣の被害に遭って親を亡くした子供たちを次々と拾っていった。
今となっては、それが七人。
……初めは彼らの存在に戸惑ったけれども、今となっては純粋に彼らを可愛く思う。
私の家族と呼べるのはボナパルト様とその子供たちだ。
「お前さんがそんなこと気にするな。儂は、お前さんが思っている以上に蓄えがある」
「……だとしても、師匠を支えるのは弟子の務めです。では、これにして失礼致します」
私は身体の強化を一段引き上げて、急ぎ屋敷に戻る。
面倒だと思うけれども、仕方がない。
……まだ、私はロルワーヌ家と決別するには力が足りないのだから。
屋敷に帰ると、服を着替えてから使用人を呼び出し、髪を整え化粧をさせる。
「……遅い」
そしてお父様の書斎に辿り着けば、不機嫌な様子でお父様はそう言った。
「申し訳ございません」
謝罪する私を上から下までジロジロとお父様が見る。
「まあ、良い。支度は整ったようだな。せいぜい、私に恥をかかせないようにしていろ」
はい、はい……と、内心呆れたように聞き流しつつ、私はお父様の後について歩いた。
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