師弟
ボナパルト・バルバロッサ。
御歳六十を越えながら、魔獣討伐の第一線で活躍している戦士。
その戦闘能力は、この国でも五指に入るという。
魔法戦闘能力も高く、国の魔法士に招聘されながらもそれを辞退し、各地の魔獣討伐に尽力していることで有名だ。
「ど、どうしてこの領に……?」
「どうしても何も、あっちでふらふらこっちでふらふらしているからなあ……。要は、たまたまだ。……儂がいることは、口外しないでくれよ?」
「は、はい」
「……で?お嬢ちゃんの名前は聞いて良いのか?」
一瞬、私は言葉に詰まる。
ロルワーヌの名を、出したくなくて。
けれども、誠意を以って接してくれるボナパルト様には正直に名乗りたかった。
「……私も、他言無用でお願い致します。私の名前は、クラルテ。クラルテ・テス・ロルワーヌです」
どんな、反応をされるのか……そう恐る恐る彼の顔を見たものの、ボナパルト様には全く動揺や不審に思うような感情は表に出ていなかった。
……単に出していないだけかもしれないが。
「……そうか。お嬢ちゃんの方こそ、外でそのまま名乗るのは難しいな。何か他の名乗りたい名前はあるか?」
むしろそのような気遣いをボナパルト様は見せてくださって、心が温かくなった気がした。
「……クラール。クラールと名乗ります」
私は咄嗟に考えた名前を、口にする。
「そうか。それで、クラール。お前さん、魔法使いを目指しているんだな?」
「……はい」
「誰か、師匠はついているのか?」
「いいえ。……そのような人脈は私にはないので」
「……ふむ。ならば、儂に師事してみんか?」
意外な申し出に、私は驚く。
ボナパルト様に、師事する……それは、望んでも得られないような機会だ。
そもそも本人が言っていた通り、国中を旅している彼に会うことすら難しいことだし、運良く出会えたところで彼は気難しく弟子を取らない……そう、風の噂で聞いていた。
「よ、宜しいのですか……?」
恐る恐る問いかければ、ボナパルト様は力強く頷く。
「ああ。お前さんの覚悟はさっき見させて貰ったしなあ……何より、目の前に原石があらば磨きたくなるのが人の性(サガ)だろうよ」
最後の言葉は意味が分からなかったけれども、彼に師事してもらえるのであれば、とやかく言わない。
「よ、よろしくお願い致します……!」
こうして私は、魔法の師匠を得たのだった。
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