遭遇

お母様は、その日を境に日に日に弱っていた。

前回の生と同じように。

終わりが近づいてくるようで、私はそれを見るたびに怖くなる。


……また。

また、私はあの生を繰り返すかもしれないと。

そう思うと怖くて怖くて、その恐怖を振り払おうと訓練を繰り返す。


今、私は屋敷の外に出ていた。

屋敷ではお母様が倒れて、使用人たちはお母様につきっきり。

元々誰もがお父様に捨て置かれている私には興味のカケラもなかったが、お母様の件で“それどころではない”と、益々監視の目は緩くなっていた。


身体に魔力を張り巡らせ、身体能力を強化する。

そうして塀を飛び越えて、私は森の方へと向かった。

屋敷から身体能力を強化した状態で走って三十分ほどのところに、森が広がっている。

未開拓のここは、たまに魔獣が出没することで有名だ。

私はここに今日、実戦の訓練として来た。


魔獣。……この世界にある、どんな生物であろうと、魔力を有している。魔獣は、何らかの原因でその魔力バランスを崩して魔に染まった獣のことだ。

通常の獣よりも、強い。

この討伐は魔法使いや、それを生業とする専門の戦士が担っている。


本によると、この森は奥に行けば行くほど強い魔獣が住んでいるらしい。

初歩魔法しか使えない私だけれども、浅いところに出没するそれならば相手になるだろう。


ゆっくりと、森の中を一歩一歩進む。

魔量を薄く辺り一面に散ばした。

こうすることで、周囲の気配に敏感になる。

今の私は小さな虫一匹まで、手に取るように知覚していた。


「……雷球」


感じ取った異質な気を発する存在に、警戒心を高め魔法を発動させる。

次の瞬間、俊敏な動きでその方角からそれは現れた。

狼の姿をした、魔獣。

じっと、私は伺うようにそれを観察する。

普通の狼と同じ大きさながら、それの身体からは魔力が溢れ出ていた。

ぐるる……という唸り声をあげ、遭遇した私に攻撃を加えようとしているような体勢になっていた。


私は出していた雷球を、飛ばす。

魔獣は、難なくそれを交わした。

そして私に走り寄り、鋭い爪で襲いかかってくる。

強化した身体はその魔獣の動きに反応してくれて、無事、避けることができた。


「……雷球」


避けつつ、私は雷球を数十個一気に発動させる。

そうして、それを全て魔獣に向けて飛ばした。

始めのうちは私の攻撃を躱していたけれども、手数の多さにやがて反応しきれなくなったのか、魔獣に魔法が当たった。

動きが鈍くなったところで、私は追撃と言わんばかりに魔法を魔獣に向けて飛ばす。


「……ごめんなさい」


為すすべもなく魔法に当たった魔獣は、虫の息状態となっていた。

弱り切ったそれを見て、何故だか自然と謝罪の言葉が口から出る。


情に、流されるな。


追撃できなかった私を、そう自分で戒める。

そして、最後に先ほどのそれらよりもずっと大きな雷球を魔獣に向けて放った。


そうして私は、初めての討伐に成功したのだぅた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る