驚愕

「……はあ」


結局、更に桶一杯の魔力精製水を作ること二十回……やっと、魔力を使ったという軽い疲労感を感じた。


けれども正直、魔力を使ったという疲労よりも桶に水を注ぐ手間に疲れを感じているようだった。


この時点で、平均の二十倍……どうやら、私は人並み外れた魔力を有しているらしい。

驚きというより、最早呆気に取られるばかりだった。


自分のことだというのに、目の前で起きた出来事を信じることができない。

とりあえず、何度も本を読み直して平均値の項目について読み間違えてなかったか確認をしたほどだ。


何かの間違いだ、私にこんな力があるはずがない……という考えが、頭の中でぐるぐると回る。


ふと、桶の中に入った魔力精製水が目に映った。


「ふふっ……」


何とまあ弱々しい表情だ……と、そんな自分が自分で嫌になって、私は思いっきり自らの頬を引っ叩く。

パチン、と小気味の良い音がその場に響いた。


……どんな時も素直に物事を受け止めることができなくて、常にネガティブな方へ方へ考えてしまうのは私の悪い癖。

ひとまず、魔法師として生計を立てることができる可能性が高まったことを素直に喜ぼうではないか。

刻み込むように、そう頭の中で繰り返す。


そうして気持ちを落ち着かせ、頭を切り替えた。

予想よりも疲労が少なかったので、訓練を続けようと。


次は、魔力のコントロール力と速度の確認。これは一度にできるもので、グラスに水を注いでその水を魔力精製水に変えるという方法だ。それもただ変えるだけでなく、予めグラスにつけておいた印の部分までしか薄ピンクに染めないようにすることが重要。

必要な魔力量を必要なだけ放出する……併せて、それにかかる時間をギリギリまで減らさなければならない。


私はグラスを前に息を整える。

今回の目標は、グラスの四分の三の量。

そこに意識を集中させつつ、魔力を放出した。

……けれどもグラスの中身全てが、一瞬で染まってしまっていた。


「あー……」


それから何度やっても、グラスの中身が見事に全て染まる。……魔力量を量る時だったら喜ばしいことなのだが。

どうやら私は、魔力コントロールが物凄く苦手らしい。


……まあ、良いか。


苦手なものが分かった方が、これからの訓練の目標が見えてくるというものだ。


ふと、その場で寝転がって宙を見る。

綺麗な夕焼け空だった。

いつの間にか、こんなに時間が経っていたのかと思いつつもじっと眺めていた。


……ここから、だ。

美しい景色を眺めながら、私は自身の手を握り締める。

今この時が、私の新たな生のスタート。

まだ、私はスタートラインに立ったばかり。

私の人生を、歩くための。

そして、私らしくあるための。


足掻いてみせる。

……今世こそは、生きてみせる。


その美しい夕日に、私はそう誓った。

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