独学
……より優れた魔法師とはどのような素質を有している者か。
多くの書物を読み漁って調べる。
そうして、得た知識を基に私なりに結論づけた要素は五つ。
基本として、まず一つに、自らの体内に保存できる魔力量の大小が挙げられるだろう。
保有できるそれは人によってまちまち。
ある程度訓練によって増やすことができるとはいえ、初めから百を持っていた者が二百に到達するのとゼロからの者とでは、どちらの方が二百に到達するのが早いか……それは、考えるまでもないことだ。
次に、魔力の操作の速さと正確性。
どれだけ速く魔力を魔法行使のために必要な分だけを汲み出すことができるのか……それは一分一秒を争う戦闘局面において非常に重要なことらしい。
けれども、ただ速いだけではなく、魔力量が発動させようとしている魔法に対して不足なくかつ過分ではない量を汲み上げる正確性がその時には求められる。
何せ、イメージする魔法に対して魔力量が少なければ魔法は発動しないし、逆に多過ぎれば暴発してしまう。
更に、魔力の密度。
これも訓練によって養うものだ。
一つの魔法に対して必要な魔力量は一定。
ただし、同じ魔力量を注いだとして、魔力の密度が濃ければ濃いほど、発動した魔法はより強固なものになる。
最後に、イメージ力。
現したい事象を、いかにより鮮明にイメージすることができるかによって、魔法の威力は変わる。
最後の一つについては、魔法を実際に使う段階に入ってから学ぶとして、まずは独学で訓練するのに、魔力の量の底上げと速度・正確性・密度を重点的に行うことにした。
何事も基本が重要であろうし、急がば回れだ……ということで、私はその訓練の内容を作り上げるのに調べることを続けようと、関連する書物を手に取ったその時のことだった。
ガタリ、という音と共に扉が開いた音がした。
とっさに、私は本棚の裏に張り付くようにして隠れる。
とりあえず、ここまでで読み上げた書物を本棚に戻しておいて良かった……と安堵しつつ、誰が来たのかをそっと確認する。
……そこにいたのは、お父様だった。
まさかの人物の登場に、私の心臓がバクバクと鳴る。
その鼓動の大きさに一瞬それがもとで、“忍び込んだことがバレてしまうかもしれかい”と案じたほどに。
そんな私の状態など梅雨知らず、お父様は手に取った本を、書庫に備えつけられた椅子に座ってパラパラと読む。
……静かだった。
まるでここだけ世界から隔絶されたような、そんな静寂とゆったりとした空気が流れている。
そういえば、こんなにお父様と同じ空間にいたことが食事以外の時にあったかしら……と、お父様の様子を伺っていた最中にふと、そんな疑問が頭を過る。
……否、なかった。
そもそも話すことは疎かお会いすることすら全くない日だってざらに会ったのだ……そう考えると、本当にお父様には徹底的に避けられていたのだと今更ながら思う。
そんなあの人を何故私は“お父様”と慕っていたのか……甚だ疑問だ。
そんなことを考えているうちに、動揺がすっかり収まりつつあった。
最初こそお父様の登場に動揺したものの、徐々にこの状況にも慣れて冷静になると、むしろ何故私は先ほどあそこまで動揺したのかと疑問に思う。
……バレたらバレたで、怒られて終わりなだけだ。
どう思われても関係ないと諦めている今、あの人に怒られようが呆れられようが至極どうでも良い。
仮に、ここへの立ち入り禁止を申し渡されたとしても、どうせあの人は屋敷にほぼいない。
見張るための使用人たちも、私やお母様には注意を払わないから、隙を見れば今日のように忍び込むことは可能だろう。
私はあの人から目を離して、手に持っていた本を読み始める。
これを読んでいる間に、お父様が書庫からいなくなっていて欲しい……そう、願いつつ。
その願いが届いたのかは分からないが、あの人は最初に手に取った本だけを持って書庫から出て行った。
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