天啓
生きるための、生活基盤……か。
宙を仰ぎ、そのまま考えに耽ける。
独り生きていくためには、住む場所が必要だし、食べる物が必要だし、あとは着る物が必要……つまり、それら全て手に入れるための金を稼ぐ手段が必要だ。
とはいえ、いままでそれに悩まされることのなかった私に、いきなり良い案が思い浮かぶことはない。
さて、どうしたものか。
頭を悩ませつつ、そっと窓から外を眺めた。
……良い天気だった。
晴れ晴れとした空に、柔らかく温かな太陽の陽射し。
そしてその下に広がるのは、美しい庭園。
こうして部屋の中にこもって、あれやこれと考えるのも勿体ない……そう思わせるようなその光景に、私は衝動的に外に出た。
外に出て、思いっきり身を伸ばす。
そしてそのまま脱力すると、疲れが飛んで心まで軽くなった気がした。
ふらりふらり、太陽の下を歩く。
窓から見た景色そのまま、やはり心地が良い。
思えば、こうして外に何の目的もなく出たことなどかったかもしれない。
牢獄にいた時は勿論のこと、この家にいた時だとて習い事やら自学やら交流会で予定が詰まっていたのだから。
……私にとって、この家もまた牢獄のようなものだったのだろう。
気持ちを切り替え、庭園の中を歩きながら、美しく咲き誇る花々に触れ、爽やかな風の音に耳を傾け、時折現れる野鳥に目を向ける。
……本当に、心地が良い。
心が、洗われるようだ。
当たり前過ぎて、見向きもしなかったこの風景。
けれどもそんな日常の一コマも、“知った気になっていた”だけで、“理解はしていなかった”。
……なんて、勿体ないことをしていたのだろうか。
この改める機会を得たことに、今初めて、私は心から感謝していた。
一瞬、強い風が吹いた。
それと同時に、ふわりと被っていた私の帽子が宙に舞う。
そしてそれは、高い木の枝に引っかかって止まった。
「……あらあら」
私は初歩的な風の魔法を使う。
魔法で発生した風は、木の枝に引っかかっていた帽子を宙に浮かせ、私の頭の上まで運んだ。
ストン、と軽く帽子が頭の上に乗った瞬間……それと同時に、先ほどまで悩んでいたことの解決法が思い浮かんだ。
……魔法だ!と。
この国の国民は、大なり小なり魔法を扱うことができる。
そして、国も国家の力を強めるために魔法の訓練をすることを奨励している。
魔法を磨き、その力を磨けば職に困ることはない……それ故、魔法訓練校に通う者は多い。
ただし、それは貴族の令嬢を除いて……だ。
貴族の令嬢には魔法を使って“働く”必要もなければ、“強く”なる必要もない。
むしろ、魔力を伸ばそうとする令嬢がいれば、その家は令嬢のそれに期待するほど財力がないと他の貴族に見做されるし、令嬢の中でも野蛮なことを積極的に求める“風変わり”で“はしたない”行為だという認識だ。
そのため、さっきまで魔法師として身を立てるということが思いつかなかった。
……ちなみに貴族の子息は、己の立身出世のため、もしくは有事の際に先頭に立って領民を守ることが求められるため、積極的に魔法訓練校に通うが。
それはともかく、今の私はお金を得る手段が必要だし、風聞を気にすることもない。
魔法師としてそれなりの地位に就けば、ロルワーヌ家からの干渉もしにくくなるだろう。
光明が、見えた気がした。
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