反復
朝食をとり終えると、メイドがその日の予定を私に伝える。
私の幼い頃の予定は、一日中、何らかの習い事で埋まっていた。
一般教養としてこの国とそれから近隣諸国の言語、数学、歴史、それから貴族の子女として求められるマナーやダンス等の作法全般。
記憶にあるかつての予定と全く同じそれに、最早笑うしかなかった。
何故だか、どうしてだか分からないが……ともかく、どうやら時間が巻き戻り、私は過去に戻ったらしい。
その予測は、講師の授業を受けて益々確信を強めた。
記憶にある人たちと全く同じ講師たちに、全く同じ内容を教わる。
寝る間を惜しみ、時には体調を崩してまで学び覚えた内容だ……教わってから今このときまでどれだけ長い間があろうとも、決して忘れてはいない。
それだけに、授業の時間は退屈だった。
復習としては、至極有意義な時間だったけれども。
かつては講師が帰った後にも復習に励んでいたのだが……正直もう必要ない。
そもそもで、頑張る理由がない。
元々お父様に褒められたいがために懸命に強していたのだ……だからこそ、もう、必要ない。
既に私はあの暗く冷たい牢獄の中で、その執着からは決別したのだから。
前回の生では、誰かに……いいや、お父様やお母様に愛されたい、必要とされたいと願って立ち回っていた。
それ故に、道を踏み外した。
……今度は、そのような愚考は侵さない。
というか、諦めていた。
……果たして、私があれだけ躍起になって努力した意味はあったのだろうか。
私は愚かだったかつての自分を思い返しては、そんなことを何度も考えた。
相応の知識や技能が身についたという点では、努力は無駄ではなかった。
けれども、家族に認められたい、愛されたいという目的を考えれば……それは、無駄なことだった。
どのように頑張ろうとも、どのような結果を出そうともあの母子しか見ないお父様に、そんなお父様しかみないお母様。
因果応報とはいえ、あのような結末を迎えるのであれば……始めから求めることすら無駄だったのだ。
また、それを繰り返すのか?
愚かだと知りながら、僅かでも可能性があるのだと信じて縋って、自らの時を使うのか?
……答えは、否だ。
今度の生は……自分のために生きる。
愛されたいなどという幻想は、捨てる。
誰かのためにではなく、自分のために生きる。
そのためには……この家を、出るしかない。
遠くない未来、お母様が亡くなってあの母娘が家に来れば、いずれにせよ、お父様にとって私は邪魔者だ。
何より、このままこの家にいたところで私に自由はない。
お父様にとって厄介者でしかない私は、ただの使い勝手の良い駒。
私が望もうが望むまいが、全てはお父様に委ねられてしまっている。
……それは、嫌だ。
という訳で、家を出ることは私の中で決定事項だけど……そのためにはまず、生きる力を身につけなければならない。
そして、家を出る口実を見つけなければならなかった。
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