転生

ふと、目が覚める。

……目が覚める?

一体、どういうことかと飛び起きた。


そこでハタと首を傾げる。

……どうして、私は飛び起きることができた?

あの牢獄で飲まず食わずで生活し、身体に全く力が入らなかったはずなのに。

だというのに、飛び起きることができてしまった。


ふと、周りを見渡せば見慣れた光景。

……だからこそ、余計おかしい。

何故、私は薄暗いあの牢獄ではなく……幼い頃から過ごした自らの部屋にいるのだろうか。


一体、何がどうして……と頭が混乱する中、少しでも情報を得ようと更にキョロキョロと辺りを見回す。

その最中、私はありえない光景に目が釘付けになった。


転がり落ちるようにして、ベッドから飛び出す。

そしてフラフラとその視線の先……化粧台の方へと向かった。


ジッと、鏡を見つめる。

そこに映っていたのは私であって私ではない……何せ、お母様が亡くなられる前の幼子の私の姿だったのだから。


自分の目で見た光景を信じることができなくて、ペタペタと自らの顔を触る。

僅かに温かい、自分の頰。

……嫌にリアルで、夢にしては出来過ぎだった。


呆然と鏡を眺めていたら、ノック音と共にメイドが入室してきた。


「失礼致します、お嬢様朝で……申し訳ございません。既に起きているとは気づかず……お待たせ致しました」


彼女の声は耳に入っているのだけれども、思考が現実に戻らず答えることができない。

メイドが、怪訝そうな表情を浮かべつつ私を伺い見た。


「失礼致します、お嬢様……どこか、お身体のお具合が?」


「え……あ、ああ……。大丈夫よ、寝ぼけていただけ。支度を、お願い」


何とかそれだけ伝えると、後はメイドにされるがままに私は朝の身支度を終えた。

そのまま、ダイニングに向かう。

広いダイニングテーブルには、私一人。


お父様は、お母様や私と食事を取るつもりなどない。

執務室で取っているか……もしくは義妹とその母親と取っているのか。

視察のためだと、高い頻度で自宅にいないことが多かったけれども……恐らくそれは使用人たちが用意した私たちへの誤魔化しで、彼らも知っていたのだろう。


お母様は、お父様がいないのであればと自室で独りで食事を取っている。


そんな訳で、私はいつもこの広いダイニングテーブルで独りで食事をとっていた。


いつか……いつかは家族皆で食事を取りたいなどと願っていた。

物語の中に描写されているように、家族皆で食事を共にし、話し、笑い合うことを夢見ていた。


……今となってはそんな幼い自分を嗤うしかない。

叶う可能性のない夢を見ていた、純粋で愚かな幼い頃の自分を。


黙々と、配膳される食事に手をつける。

淡々と口にするそれらは、酷く味気ない。

ただただ、栄養を摂るための行為だ。


食事を終えると、私は再び自室に戻った。

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