1-3.そして悪魔は全裸になる。
頭にきたので全裸になった。
ごめん、言葉が全然足りなかったね。
正しくは『頭に来たので放課後、誰も居ない教室で全裸になった』だ。
昼には屋上で昼寝野郎こと
そりゃあ流石の葦木くんも激怒しますよ。誰もいない放課後の教室で全裸にもなりますよ。えぇ、なりますとも。
ただ、俺は自らの性的趣向を満たすためすっぽんぽんになっている訳では無い。ちゃんと理由があるのだ。
……ホントだよ? 別に露出趣味は無いよ? 多少の開放感でテンションゲージはビンビンに上昇してるけど、僕は変態じゃ無いよ?
聞いておくれよ。だってもうこんな人間どもの世界で下等な人間に擬態して生きていくのはまっぴらごめんなんだよ。
先だって説明した様に、俺がこんな茶番を繰り広げているのは帆篠雫月のせいである。誰のためにこんな目にあってると思ってんだ。
学校に来ちゃ先生に叱られ、学友と呼べる存在は一人もおらず、楽しい事はひとつもない。
それでも俺は彼女の願いを叶えなければならないから、その目的の為にこうして高校に通い、彼女のクラスメイトとして過ごしている。
ここひと月ほど、何度も帆篠と接触して、その願いがなんたるかを探って来た。いや、あんま探れてないけど。
誠に甲斐甲斐しいものである。悪魔の鏡である。
しかしながら地道な諜報活動に対し、まったく成果はない。
それどころか接触すればするほど、話をすればするほど帆篠のことがわからなくなった。おおよそ、彼女が考えていることがわからない。追いかけるほどに、目的は歩を早めて俺から逃げていく。
そして今日、俺の不幸は絶頂を迎えた。
そうなったらもう全裸になるしかないよね?
全裸になれば……もとい、悪魔の姿に戻れば魔力をフルに使ってあいつの願いを探ることができるんだから。
最初からこうすりゃよかったんだ。ひと月も取り留めのない時間を過ごしちまったよ。
しかしまぁ、この姿になるのも久しぶりだな。やっぱり羽がないと落ち着かないよね。背中がなんか寂しいもんね、人間って。
後ろに重心が傾かない分猫背にもなるっつうの。角が無いと頭もすーすーするし、人間って飾り気がなさすぎだよなぁ。
さて、無駄話もそこそこにそろそろ始めますか。
ひとつ背伸びをして、よし! と気合を入れた。
まずは帆篠の私物を物色する。ヤツの持ち物から魔力で心の内なんかを覗いて、あいつが本当に叶えたい願いを探り当ててやる。
そこまで済めば簡単だ。あとは俺の全知全能の魔力でその願いを叶えるだけ。晴れて俺は魔界に帰って、この人間界で訳のわからんルールやら人と人との関係性やらから解放されるのだ。バイなら。
意気揚々と机の中に手を突っ込む。なんかドキドキするな、スパイ映画の主人公にでもなったかの様な気分だ。別に女の子のプライバシーを汚している事に興奮しているわけではないということを強く主張したい。
おいおい、教科書くらい持って帰れよ。家で勉強してないのか帆篠のやつ。そんなくせして成績良いのがムカつくなぁ。
あ、筆箱まで置いて帰ってやがる。消しゴムの角全部齧っておいてやろうか。
しばらく机を弄ったが、特にめぼしい物は見つからない。
もっとこう、なんか無いのかな。情報がいっぱい詰まってそうなもの。例えば衣服とか、パンティとか……あらあら、あるじゃ無いですか、体操服が。
今週はまだ体育なかったけど、明日体育あるから前もって持ってきて置いておいたんでしょうね。準備がよろしいことですわ。
でも、そんな用意周到な性格が仇となったな! よーし! 体育の度に汗を流すお前を優しく包み込んでいたこの体育着から、君のありとあらゆる情報を読み取っちゃうぞ!
いざ、夢の世界へ……。
ひゅー! 洗剤の良い匂いがするぜ! なんだかんだ言って君もやはり女の子なんだな! 甘い! 甘いぞ! 甘い匂いがするぞ!
ガララララ……
教室の扉が開いた。
佇むは、面識の無い一人の女子生徒。目を大きく見開き、同じくらい丸く口を開けている。
見られた。
ち、違うんです。これは違うんです。僕はただの通りすがりのコスプレイヤーです、決して悪魔などと言う非現実的な存在ではないのです。あと、変態でもないですごめんなさい。
束の間の静寂。気不味い沈黙。
取り敢えず、会釈でもしとこう。
「……あ、こんちわ。こんな時間まで学校に残って何をしているんですか?」
そう言い終わったところで女子生徒は悲鳴を上げたのだった。
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