第17話
順二は正月三日に帰って来た。羽二重餅をお土産にして。スミレは安堵して、緑茶を入れ二人で羽二重餅を食べた。たった五日間の空白だったのに、スミレは待ちに待っていた。本当は真っ先に順二を抱きしめたかった。けれど、この休暇中、順二が妻とどのように接したのかとあれこれと想像すると、嫉妬心がわき、他人行儀になってしまったのだった。
順二の言ったことは全部嘘で、待ち受けていた妻は、順二を激しく求めたに違いないと思ったりする。順二は順二で、スミレはスミレ、妻は妻と割り切って、まれの再会で激しく燃え上がったかもしれない。スミレははやる心をなだめて、拗ねたように冷静に装っている。スミレは身を引くようにすっと立ち上がって、
「順二さん、もう一杯お茶を入れますね」
と言って、キッチンにポットを取りに行く。
拗ねながら、後から追い掛けて来て順二が後ろから抱いてくれないかと待っている。けれど、来てくれなかった。
スミレは落胆しながら、ポットを取って帰って来た。その時、ソファーから、順二がじっと自分の姿を見つめている姿が見えた。自分を見つめてギラギラと光った順二の目は、獲物を狙っている動物の目のようだった。スミレの中に、熱い情熱が噴き出て来た。順二さんは私を好いていてくれる、と思った瞬間、全てを忘れて、ポットをテーブルに置いたまま、お茶を入れることも忘れて、順二の横に座って強く順二を抱きしめた。
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