第16話

順二の妻が順二とのセックスを拒否していて、親の世話に重きを置いていると聞いて、奥さんは年寄で、髪を振り乱して働いているばかりの田舎者に違いないと、思ってしまった。


その年の暮に、順二は当然のこととして福井に帰ってしまったけれど、スミレの気持ちは割と平穏でいられた。セックスもしない仮面夫婦なんだわと思うと、嫉妬心がやわらいだ。けれどやはり日が過ぎていくにつれて、一人でお正月を過ごしていると、もやもやとしたわりきれない感情が胸をついて来た。


スミレは、こんなはずではなかったと思いめぐらす。四十歳を目前にして、子供を産むぎりぎりの年に近づいて来たと焦りだし、可愛い子供が公園で遊ぶ姿や、若いパパやママがよちよち歩きのわが子を中心に団結している姿を見て、自分もあんなふうな幸せが欲しいと思ったのだ。


それなのに、自分は何故妻のいる順二を選んでしまったのだろう。正しく清い結婚を待ち続けていたのに、どこでどう自分は間違えてしまったのか。


スミレは寒風にさらされながら、ベランダから公園を見下ろし、涙ぐんだ。桜の木はすっかり葉を落とし、それでもゆるぎなく立っていた。


紅葉の桜の木の下で、順二に心を奪われた情景が脳裏に浮かぶ。妻に拒否され、順二の中に溜まっていたエネルギーが、スミレに、目に見えない波動となって襲ってきたのかもしれない。スミレはその波動に撃ち抜かれて理性を失くしてしまったのかも知れない。


スミレは割ない運命に泣いた。


もう少し自分に理性が働いたら、順二nに

引き込まれたりはしなかっただろう。


あの時、なぜ、理性を打ち砕くような欲望が身内から盛り上がって来たのだろう。どうしてそれを押さえることが出来なかったのだろうか。


他にも、正々堂々と子供を産める男性がいたはずではないか。


もっと早く婚活も出来たわけなのに、何故、ぼんやりと仕事だけの月日を送っていたのか。


バツイチと言っても、不幸にも病気で夫を亡くしただけなのに。


スミレはお正月という行事のために、順二に会えない日々の苦しみから、自分の失敗を嘆いていた。


それでいて順二に会いたいという思いは募って行った。


三が日なんか早く過ぎてしまえばいいと、心の中で思っていた。

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