第13話
一時を回った時、順二が「もうお暇しなければ」とはっと時計を見て言った。
「まだ、いいじゃありません?一日ぐらい遅くなっても、何ていうこともありませんわ。おうちに帰れば、どうせお風呂に入られるのでしょう。今お湯を張りますから、どうか入って行ってください」
そういったと思うと、スミレはすぐ立って行って、お湯を入れた。順二に有無を言わせなかった。やがて、
「順二さん、お湯が入りましたわ。お入りになって」
「いやあ」
と順二がためらっていると、
「家に帰って、一人でお湯張るのも面倒でしょ、どうぞ、どうぞ」
と言って、手を引いて立ち上がらせ、背中を押して風呂場に連れて行った。
「じゃあ」と言って、順二は脱衣場で衣服を脱ぎ始めた。
スミレはリビングに戻って、ソファーに腰かけ、放心していたが、何かを思いついたようにすくっと立ち上がり、風呂場に行って、順二に声をかけた。
「背中を流して差し上げたいわ。ちょっと入らせてね」
と言ったかと思うと、洋服をするりと脱いで下着姿になり、湯に浸かってのんびりと温まっている順二の浴槽のわきのタイルにひざまずいた。
順二は不意を喰らって、動揺して掌で前を隠した。
スミレは、お湯の中に手を入れて、背中を撫でた。
「ねえ、背中流しますわ」
「いやいや、そんな事までさせてはいけません。もうすぐ上がりますから、酔い覚めの緑茶下さい」
と、きっぱりという順二に、さらに背中を流したいとは言えなかった。
「はい」
と、スミレは、しおらしく答えて、恥じてリビングに退き、お茶の用意をした。
やがて、順二はバスタオルを腰に巻き付けただけの姿で上がってきた。
スミレは、エアコンの温度を三十度に上げ、風呂上がりの裸のままの順二に、お茶を差し出した。自分もスリップ姿のまま、ソファーの順二の横に座ってお茶を飲んだ。一杯のお茶を、二人は同時に飲み終え、テーブルに湯呑を置いた。酔いも手伝ってスミレの欲望は高まっていた。スミレはしな垂れかかるように順二にもたれ、順二の顔に、自分の顔を近づけていった。順二は無言で激しくスミレの唇をとらえた。スミレは目も眩むような喜びが、体中に走るのを感じた。
スミレは、激しい順二の動きを、悦び一杯で受け止め、順二が離れた時、ぐったりとなってソファーに横たわっていた。
順二もしばらくぐったりと横たわっていたが、立ち上がり、
「風邪をひくよ」
と言って、スミレを起こしベッドに連れて行った。
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