第12話
とうとう駅に着いた。改札口を出た時スミレは思い切って声をかけた。
「今日私のマンションに寄って行かれませんか?」
「はあ?」
「よかったら、ちょっとだけでも」
「はあ、いいんですか?」
「私一人ですもの、どうぞどうぞ」
「そしたら、ちょっと寄って行こうかな」
「いらして下さる?嬉しい!」
スミレは思わず立ち止まって胸の前で両手を合わせた。それからは順二を誘導するように、軽やかに順二の一歩前を歩いた。
五分もかからずマンションにつき、オートロックの鍵を開け、
「六階ですの」
と言って、順二をエレベーターに乗せた。
部屋に着くと、スリッパを整え、順二を先に上がらせてから、ドアを閉めて上がった。
「女性の独り住まいの部屋なんて初めてです。随分きれいにしているのですね。縫いぐるみが沢山あって、可愛いですね。男一人の僕の部屋なんて殺風景ですよ」
「まあ、そうなんですの。一度お伺いしてみたいものですわ」
そう言って、じっと、順二を見つめるスミレの目は、うるんでいた。
「何かお飲みにならない?さっき、ビールをおいしそうに飲んでいらしたから」
「ええ、お酒は割となんでもいける口です」
「ワインとビールがあります。どちらになさる?」
「ビールにしようかな」
スミレは、サラミソーセージとチーズを盛り合わせて、ビールに添えて出した。
「私、福井には一度も行ったことがないのだけど、東尋坊は行ってみたい所だわ」
「来てくださいよ。休暇中だったら僕が案内します」
「崖の上から、日本海に向かって、『おーい』って叫んでみたいけど、そんなことしている人いないでしょう?」
「うーん、まあ、いませんね。それはちょっと変な人と思われるかも」
その言い方がおかしいので、スミレは、酔いも手伝ってキャッキャッと笑い転げた。
順二もかなり酔っていて、ハハハハハと大口をあけて笑っていた。スミレは打ち解けていた。もう、今日初めて招待した人のようには感じなかった。もう何回も体を許し合った仲のように錯覚していた。
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