第7話

「横に座ってもよろしいでしょうか?」と彼は折り目正しく言った。

「どうぞ」と言って、スミレは少し脇に寄って彼の横顔を見つめた。

鼻筋の通った外国人のような横顔だった。

「このところいい天気が続いていますね」と彼は言った。

「本当に、気持ちのいいお天気ですわね」

「よくお会いしますけど、公園はお好きですか?」

「ええ、私、公園が大好きなのですよ。ここで、のんびりしていると、疲れが取れるような気がします」

「僕も、公園が好きなのです。マンションを借りる時もわざわざ公園の近くを選んだのです」

「まあ」

「実は高校時代サッカーをしていたもので、あそこのネットの中でボールを蹴るんです」

「スポーツマンですのね」

「まあね」

そこでスミレは話の接ぎ穂を見失い、頭が話題を探して空回りしていた。

「さっき、何か編んでいましたけど、編み物がお好きですか?」

「ええ、大好きなんですよ」

 そう言った後で、不得手なスポーツも好きだと言わなければ、好いてもらえないのじゃないかという不安に駆られた。

「サッカーもよくはルールが分からないのですけど、時々テレビで見て面白いなと思うんです」

「ルールはそう難しいものじゃないですよ。今度一緒に試合を見に行かないですか?ルールならその時教えてあげますよ」

「本当?ぜひ行ってみたいわ」

「もうちょっとしたらサッカーの試合がありますので、見に行きますか?」

「是非。お願いいたします」

「この公園は桜の木が沢山あって、紅葉は格別ですね」

「桜の木は二度楽しめるって言いますものね。春もとてもきれい」

「僕の田舎には、桜並木の土手がありましてね。その下でお弁当を広げて宴会が始まるのでした。子供の頃とても楽しかったです」

「田舎は、どちらですの?」

「福井の、ずっと奥です。あなたは、どちらですか?」

「私はずっと東京なんです。実家も目黒です」

「チャキチャキの江戸っ子なんですね。その上、山の手のお嬢さん」

「いいえ、そんな…」

 たわいのない会話だけれど、スミレにとっては頭がぼーっとしてしまうくらいうれしい会話だった。

 気が付くと、もうあたりは暗くなりかけていて、子供の姿は消えていた。

「そろそろ、帰りましょうか。送りますよ」

と言って、彼は立ち上がった。

「いえ、そこですから、あそこに見えているレンガ色の高いマンションですから、送ってなんか頂かなくても…」

「いえ、そちらに買い物もありますから」

 そう言って、彼はスミレと肩を並べて歩き出した。こんな素敵な男性と並んで歩くことなど、ついぞなかった。スミレは全身で喜びを感じるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る